「小料理屋 桜」を最初から読まれる方はこちらから
雄二が終電近くに帰ってから桜子は迷ったが康之に電話をした。
「こんな遅くにごめんなさい。今、いいかしら。」
「構わないよ。俺とよりを戻してくれる報告?」
その言葉に桜子は黙ってしまった。
「黙るって事は違うんだ。あいつと結婚でもするの?」
「えぇ。あなたに言うべきか迷ったけど、一度は夫婦になった私達だもの。言っといた方がいいと思って。」
暫く康之は黙っていたが、おそらく無理をしているのだろう。
笑い声で、
「あいつは俺と違う。今度こそ幸せになれよ。」
「ありがとう。報告はこれだけ。」
「結婚式には俺は招待してくれないの?」
「…。出来る訳ないじゃない。元夫を招待なんて。それに結婚式なんて大げさな事はしないわ。
身内だけで報告会をするだけ」
「そう…。じゃな。」
康之が電話を切る時に一瞬の間があったのが、気になったがそれはほんの少しの事だった。
桜子と雄二が結婚するまでバタバタした毎日が続いていた。
雄二は昼間、ギャラリーの仕事があったし、桜子は夜、店の仕事があった。
雄二が何とか時間を作って桜子は雄二の両親に挨拶に行く事が出来た。
「桜ちゃん、久しぶりね。上がって、上がって。」
雄二の母親は大学時代から付き合ってる時から桜子の事を自分の娘の様に可愛がっていたので
この日を待ちに待っていた様だった。父親は何も言わなかったが微笑みながら桜子の事を観ていて
桜子の訪問を歓迎している様だった。
話は雄二の母親の趣味でもあるお茶の為の茶室でおこなわれた。
母親が雄二、桜子、夫の為に茶を入れ話は始まった。
桜子は大学時代に雄二の母親に茶の道を教えてもらっていたものだったので
最低限度のマナーは心得ていて静かな時間が流れる中話は進んだ。
「雄二に聞いたわよ。結婚するんですって?」
母親から茶を受け取りながら、桜子は一口飲んで、
「はい。」
とだけ答えた。
「嬉しいわ。私に娘が出来るのね。ねぇお父さん。」
父親も和服を着て茶を受け取りながら小さくうなずいた。
「結婚式はするの?」
「いえ。私のお店で報告会だけします。」
「それに私達も参加してもいいかしら。」
招待客は顧客だけだと考えていたので、一瞬考えてしまったが桜子にはすでに両親はいない。
母親は生きているが縁も切ったも当然だから呼ぶつもりはなかった。
「もちろんです。ぜひ来てください。」
「あとは住む場所ね。もう決めたの?」
それは雄二にも桜子にも聞いてる様だった。母親の質問に答えたのは雄二だった。
「それはまだ。お互いいそがしくってっさ。でも俺のギャラリーと桜子の店の間位に決めようと思ってる。」
「でも本当に良かった。雄二ったらずっと桜子さんの事を想ってたのよ。」
雄二はクスクス笑いながら言った母親の言葉に茶器を落としそうになりそうになったが、
「母さん、余計な事を言わなくてもいいから。」
こうやって二人の結婚は進んでいくのだろう。