小料理屋 桜 72話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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桜子は料理をしていた手を止めると呆然と雄二を見た。

「いいの?私で。」

「今度の墜落事後に合いそうになった時に思ったんだ。

人間、いつ死んでしまうか分からないって。桜子の親父さんもそうだっただろ?

だったら、俺は桜子に何を残してやれるかって考えたんだ。

せめて俺と過ごした時間だけでも残してやれるんじゃないかって。」

桜子はその言葉を聞いて薄っすらと涙を浮かべた。

「私も。もしあの墜落事故の飛行機に乗ってたら私達の思い出は

悲しいものだけになってしまうかもしれない。」

雄二は持ち帰ってきていたリュックから小さな箱を出した。

「これ…。安もんだけど婚約指輪。受け取ってくれるか?」

何も言わずに桜子は何度もうなずいた。

「桜子、左手出して。」

少し震える左手を雄二に出すと、雄二は小さなダイヤがついている指輪を

薬指にゆっくりとはめていった。

「綺麗…。」

「でも安もんだよ。」

照れた様に雄二は言ったが桜子にとっては値段ではなく雄二からもらう事に意義があった。

「ね、大森さん達には結婚する事を報告してもいい?」

「もちろんだよ。北村さんにも梓さんや、美由紀さんにも報告しよう。

でも、派手な結婚式はしないで身内だけでしようよ。」

それは桜子も考えていた事だった。

「お店で皆に報告会をしない?ここだったら大人数は入れないけど

ここに来てくれる人だけで十分だもの。」

「それじゃぁ主役の桜子が料理とか作らないといけないじゃないか。」

以前、美由紀が桜子に言っていた

『結婚をする前にマイナスな事を考えちゃダメよ』

という言葉を思い出して、もしかしたら美由紀が料理を作ってくれるのではと思った。

美由紀は最初から康之との結婚に反対していたから雄二との結婚に大賛成してくれるだろう。

「美由紀叔母様が料理とか作ってくれると思うの。私達も招待する方々に挨拶しないといけないし。

でも本当に私達、結婚するのね。なんだか不思議な気持ちだわ。」

「俺は桜子と康之が結婚して離婚までしたって聞いた時、すっごくショックだったよ。

ま、俺か勝手にパリに行ったのが悪いんだけどさ。」

「そんな事ないわ。康之さんとは相性が合わなかったのよ」

康之との短い結婚生活は桜子にとって苦渋にしかなかった。

今度こそ雄二と幸せになりたいと心から思った。