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父の実家は青森でも奥の方にある竜飛岬の近くだった。
JRで青森駅まで行って、JR津軽線三厩駅近くが父の実家がある場所だった。
前日に納骨に行く事を父の兄にあたる叔父に話してあったので
駅まで迎えに来てくれてた。
この土地では車で移動しないと不便になる。納骨する墓地まで送ってくれるらしい。
桜子と雄二の姿を確認した叔父は、肩を落として、
「忠よりわしの方が先に逝くはずなのに、なんであいつが先に逝ってしまったんだ。」
そう言って涙ぐんでいた。
「すまんかったな。葬式にも行けなくて。最後位、見送ってやりたかったんだが。」
「いいんです。町内会のみなさんや会社の方々が見送ってくれました。」
桜子の手には骨壺があった。
「秋穂さんは?」
それは母の名前だった。
桜子は黙って首を振り、
「亡くなった日に病院には来てくれましたけど、間に合いませんでした。
本当だったら最後位、顔を見ていって欲しかったんですけど…。」
その先はとてもじゃないが言えなかった。
亡くなった日の母の態度はあまりにもひどすぎた。
「この人は?」
叔父の視線は雄二に移された。
「…。結婚を予定してる人です。父にも紹介したかったんですけど。
私が父と連絡が取れないのにうちに父の顔を見に行かなかったのがいけないんです。」
「桜ちゃんが自分を責める事はない。しょうがない、こうなる事になってたんだ。」
そう言われても桜子の心は晴れなかった。
「いつまでも立ち話もなんだから、わしのうちに来るといい。
その後に皆であいつを見送ってやろう。」
「はい。」
叔父の自宅は三厩駅から車で20分の所にあった。
後部座席に座っていた桜子は幼い頃にまだ母とも家族らしくいた頃の事を思い出していた。
夏休みになると父の実家に行って東京の暑さから逃れる様に来ては
従姉妹たちとはしゃいでいたものだった。
それがなくなったのは母と父の関係が修復不可能になってからだった。
父の事を思い出すのは辛い。
だが、忘れる方がもっと辛かった。
せめて最後の一言を聞きたかった。