小料理屋 桜 61話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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桜子はゴクリと息を飲むと、

「危ないんですか?」

その質問に医師は沈痛な表情をするだけで何も言わなかった。

「わかりました。」

桜子にはそう言うしかなかった。

病院の携帯使用可の場所を看護師に聞いて最初に連絡をしたのは美由紀だった。

「叔母様…。」

「どうしたの?」

「父が…。」

それだけを言っただけで涙が零れそうになる。

「兄さんがどうしたの?」

「しばらく連絡が取れなくて、今日実家に帰ってたら台所に倒れてたの。

先生は覚悟した方がいいかもしれないって。」

電話越しに美由紀が息を飲むのが分かる。

「それで、病院は?」

「高橋総合病院。」

「家から遠いじゃない。」

「どこの病院も搬送拒否されて。」

「すぐ行くわ。…。それと義姉さんにも連絡するのよ。」

桜子の中では母に連絡をすることは頭になかった。

あれだけ喧嘩をして別れた二人だ。母は来ないと思っていたからだ。

「…。来るでしょうか。」

「最後かもしれないんでしょ?来るわよ。一度は夫婦になったんだから。」

「はい。」

美由紀にそう返事をしたが母に連絡するのはためらった。

母は気が強い性格だった。

最後かもしれなくても来ない気がした。

呆然と携帯電話使用許可所で携帯を握りしめていると、

後ろから肩を叩かれた。振り向くと雄二が立っていた。

「大丈夫か?」

「うん。美由紀叔母様には連絡した。でも…。お母さんにも連絡しろだって。

来るはずもないのに。」

「こんな時だ。きっと来るよ。」

桜子は首をかしめて、

「来るかしら。」

「とにかく、連絡はしてみろよ。それで来なかったら来なかっただ。」

その時、処置室が慌ただしくなった。

思わず処置室に駆け込もうとしたが、雄二に止められた。

「俺達は医者じゃないんだ。ここは医者に任させるししかないよ。今は、おばさんに連絡するのが先だ。」

桜子の携帯電話には母の実家の電話番号がメモリーされている。

雄二にそう言われても母に連絡をするのが躊躇された。