小料理屋 桜 58話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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そこまで美穂の事情を知った桜子は初めて美穂に話しかけた。

「美穂ちゃんって大人しいでしょ?それで多分だと思うけど子供も好きだと思うの。

保育士の資格を取るのもいいし、初めて知ったけど社会保険労務士の資格を活かしてもいいと思うの。

確か社労務士ってお給料いいって聞いた事があるから。」

少しでも美穂の力になりたいと思い、桜子は前のめりになって美穂に話しかけていた。

「…。少し考えて下さい。」

美穂は梓の目も桜子の目も見ずに呟いた。

梓と桜子は顔を見合わせてしまったが、決めるのは美穂である。

「わかったわ。でもお給料は今まで通り出す事は忘れないで。」

美穂の手を握って梓は自分を納得させた。


それから1週間後、美穂は梓に事務職を指せて欲しい事を告げた。

自分自身でホステスと言う職業が向いてないと自覚していたのはもちろんの事、

梓や桜子が熱心に保育士の資格を取る事を勧めた事もあった。

「じゃぁ来週の月曜から事務室で仕事をしてくれる?

服装はホステスの子達とは違って普段着でいいから。」

桜子の提案に乗った梓はさっそく美穂に事務の仕事を依頼した。

「すみません。お店で役に立てないのに事務の仕事をさせてもらって。」

「いいのよ。人には向き不向きがあるんだから。それに事務の仕事は私がしてたからね。

美穂ちゃんにしてもらうと助かるわ。」

こうして美穂はホステスではなく事務職の仕事が決まった。

その晩、梓から桜子に電話があり、桜子の提案通りになった事が知らされた。

「そうですか。でもごめんなさい。美穂ちゃんをうちで預かる事が出来なくて。」

「いいのよ。桜ちゃんの提案で美穂ちゃんにも私にも助かったんだから。」

梓と話をしていると雄二が店に入ってきた。

「ごめんなさい。お客様がいらっしゃったから。」

「わかったわ。月前とは言えお客様は大事にしないとね。

今度、美穂ちゃんの資格、どれを取るか3人で話し合いましょう。」

電話をしていた桜子に向かって、

「いいのか?大事な電話じゃなかったのか?

雄二は桜子と父が話していると勘違いしていたがいつもの左隅のカウンターに座った。

「大丈夫。知り合いと話してただけだから。それと私達の結婚、まだ父に話してないの。

最近、電話してもうちにいる事が少なくって。

こないだも梓さんの店に行った帰り実家に寄ろうと思ったんだけど

電話したら留守だったから。」

それを聞いたので雄二の顔は曇った。

「電話だけじゃなくて実家に一回帰った方がいいんじゃないか?

もしかしたら倒れてるかもしれない。」

それは桜子の考えてもいない事だった。

確かに今の世の中、孤独死をする年配の人が多い。

雄二に言われて急に不安になった。

「そうね。店が終わったら見に行ってみる。」

「いや、こういう事は早い方がいい。今日は客が俺一人だから今から行ってみたら?」

だが、先日実家に帰った時、父は元気そうだった。

料理まで作ったのだからそんな事はないと思いたかったが、

雄二の言う通り帰った方がいいかもしれない。