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「今日は私がご飯作るわよ。」
そう言ったが父親は、
「いいよ。俺が作る。この頃料理をするのが楽しみの一つになってるからな。」
「じゃぁ手伝いだけでもする。」
親子2人で作った料理は簡単な物で父親は野菜炒め。
毎日の様に客の為に作っている桜子はきんぴらと筑前煮を作った。
食事をしながら、桜子が作った筑前煮を口にした父親は、
「桜子、料理の腕が上がったんじゃないか。店を美由紀から引き継いだ時は危なかったがな。」
そう言って笑った。
「だってもうお店を引き継いで5年だもの。毎日の様に作ってたら慣れてくるものよ。」
桜子が美由紀から店を引き継いでから1年程、父親も店に様子を見に来る事もあった。
だが年を追うごとにその回数は減っていってた。
食事も終え、二人でお茶を飲んでいると桜子が思ってもいなかった事を口にした。
「藤堂君とはどうなっているんだ。」
どう答えたらいいのか迷ったが美由紀に答えた様に返事をした。
「最近、2~3回お店に来たわ。今まで浮気をしていた女性たちと別れたから
やり直さないかって言われちゃった。今更元に戻る事なんて出来ないのにね。」
「勝手な奴だな。」
お茶を一口飲んでから、
「美由紀叔母様も言ってた。男の人っていうのは浮気するものなんですって。」
父親はその言葉を聞くと苦笑した。
桜子の母親と離婚したのも、父親が浮気をしているのではないかと母親が疑ったからだった。
実際には浮気はしていなかったのだが、母親にそう思わせた父親にも多少なりとも
責任はあるのかもしれない。
そんな話をしていた時、桜子の携帯電話が鳴った。
相手は雄二だった。
「お父さん、ちょっとごめんね。お客さんから。」
そう言って隣の部屋に移動した。まさか何も言わずにパリに行った雄二とも今、
連絡を取っているとは言いづらかったからだ。
「もしもし?」
「今日、定休日って言うのは知ってるけど今から会えないか。
他のお客さんに聞かれたくないんだ。」
桜子は迷ったが、半分以上雄二に気持ちが傾いている事は自覚していたので
会う事にした。
「わかった。今、実家なの。今から帰るから…。30分位したらお店にいると思う。」
電話を切り、父親の元に戻ると、
「予約の事で話があるんですって。私、お店に戻るから。」
自分でも苦しい言い訳と分かっていたが雄二と会う事は言えなかった。
「そうか。気を付けて帰るんだぞ。…。それとたまには母さんに会いにいってやれ。」
「うん。」
一体どんな話があるのだろうと思いながら桜子は店兼自宅へ帰って行った。