小料理屋 桜 38話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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美由紀はいちご大福を食べ終わると煙草を出したが火はつけず

ただ、手に1本だけ持ったままで、

「まぁ、藤堂君に限らず男なんて浮気をする生き物だからね。」

血筋なのだろうか…。桜子の両親も美由紀も離婚をしていた。

その事を考えると何か皮肉なものを感じてしまった。

黙って二人は庭を見ていたが、煙草に火をつけた美由紀は

美穂の事を話し始めた。

「私から梓に言う事は出来ないけど、その子を桜の店で雇う事は反対ね。

それを桜から言えるかどうかはあなた次第だと思うわよ。」

「…。そうですね。機会を見て梓さんにはお断りしようと思います。

梓さんには申し訳ないですけど。」

桜子の言葉に対して美由紀は無言だった。

しばらくして美由紀が口にした事は雄二の事だった。

「堺君が帰ってきたのならまた堺君とお付き合いする事を考えてみたら?

私みたいな歳になるとそんな事はもう縁がないけど桜はまだ若いんだもの。」

「…。」

美由紀の言った事には返事をせず、桜子は別の事を話した。

「叔母様。今日は相談に乗って下さってありがとうございました。また、来ます。」

雄二の事に返事をしなかった桜子に対して不快になった様子も見せずに、

「帰りは兄さんの所に寄っていきなさい。なかなかあなたってば実家に帰らないんだもの。」

「はい。」

玄関先まで桜子の事を見送った美由紀は再び、

「兄さんに会っていきなさい。」

と繰り返した。

桜子の父が今や一人で住んでいる実家は美由紀の自宅から歩いてでも

10分程の所にあった。

実家に帰るのなら、父の好きな串団子も美由紀の為に寄った和菓子屋で買ってくれば良かった

と思った。

自分の実家のはずなのに、桜子は自宅のチャイムを鳴らして来訪を告げた。

引き戸を開けた父は桜子の姿を見ると、

「久しぶりだな。」

一言だけ言って自宅の中に入る様に促した。

「ごめんね。最近帰ってこなくて。」

和室の客間に入りながら実家に帰ってこなかった事を父の背に向かって謝った。

「俺に構わんでもいい。店の方も忙しいんだろ。」

口調はぶっきらぼうだったが、本心は寂しいのだろうと桜子は思った。

父は台所でお茶を入れると客間で待っている桜子に持ってきた。

「どうだ、店の方は。」

「ボチボチよ。」

「そうか。」

「父さんはどう?またお酒とか飲み過ぎてない?」

酒を提供する店を開いている桜子だったが、飲み過ぎになる父の体調の事は心配だった。

「美由紀にしょっちゅう言われてるよ。「飲み過ぎだ」って。」

苦笑しながら妹に言われている事を思い出していた。

「今日は店は休みなのか?」

「えぇ。日曜は定休日だから。」

「じゃぁ、メシでも食っていけ。いつも一人だと物悲しいだろ。

まぁそれは俺にも言える事だがな。」

その言葉を聞いて、父は再婚しないのだろうかと思った。