小料理屋 桜 7話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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モヤモヤした気分で洗い物をしていると大晦日に貸し切りで

忘年会をしてくれた、村木が入って来た。

「いらっしゃいませ。この間は貸し切りで皆さんに来て下さってありがとうございました。」

「忘年会ともなるとどこの居酒屋もいっぱいだからな。

ここだと少人数で気の合った奴らと飲めるからいいんだよ。

これ美味しそうだね、これに合った焼酎ってある?」

村木が指名したのはイワシの青しそ巻だった。

「焼酎は水割りにしますか?」

「うん、僕のボトルまだ残ってたよね。」

カウンターの後ろには常連客の焼酎が並んでいた。

「あと少し残ってますよ。」

小皿につまみを入れ、村木に水割りを差し出す。

村木はつまみを一口食べると、

「旨い!おかみさんは料理が上手だね。毎日通っちゃうよ。」

「ありがとうございます。でもおつまみは叔母にも教えてもらってるんですよ。

まだまだ和食のお料理が上手じゃないですから。」

「いや~これだけ旨かったらば文句はないよ。」

桜子と村木をで年末年始はどう過ごしていたか話していると

新しい客が入って来た。

「あれ?村木さん、いらっしゃってたんですか。」

「ちょっとね。おかみの顔もみたくなって。田上君もどうしたの?」

田上は村木の隣に座り、

「なんだかね。おかみの料理が食べたくなったんです。

この山芋の梅肉添えと、これってしらすと三つ葉を何で和えてるの?」

「ごま油ですよ。さっぱりしてるからお酒も進むと思います。」

「じゃぁそれ、日本酒は冷酒しして。銘柄は任せるよ。」

後ろに並んでいる何本もの日本酒の中から雪中梅を選び

升酒にして田村に渡した。

「今年もとうとう始まっちゃいましたね。」

誰に言う訳でもなく田村は渡された雪中梅を一口飲んだ。

「来る途中で雪がちらほら降ってたよ。」

「まぁ?そうなんですか?」

そう言いながらも、雪が降っているのなら客の帰りの電車が混雑するかもしれないから

今日は早めに店を閉めた方がいいかもしれないと思った。

「おかみさんは年末年始、休みがなかったんだろ?

たまには休んだら?」

村木がつまみを口に運びながらそう言った。

「うちで一人でいるよりお客様と一緒にいた方が楽しいから休みは取りません。

それにもう新年会の貸し切りの予約が入ってますから。」

「おかみさんは働き者だなぁ。」

「でもありがたい事です。こんなに小さな店でも貸し切りにして下さる

お客様がいらっしゃるんですから。村木さん、おつまみどうしますか?」

村木のつまみが入っていた小皿はすでに空になっており、

焼酎をちびちびと飲んでいた。

「じゃぁ…。油揚げのきんちゃくをもらおうかな。」

「あっ、僕もそれを。」

二人分のつまみを小皿に移してそれぞれのカウンター前に置いた。

「これ、叔母に教えてもらったんです。まだまだ叔母程上手じゃないかもしれませんが。」

二人がそのつまみを食べると、

「そんな事ないよ。美由紀さんと同じくらい旨いよ。おかみさんも料理の腕上げたね。」

「ありがとうございます。」

「僕達ばっかり飲んでないでおかみさんも飲んだら?」

「そうですか?じゃぁお言葉に甘えて。」

桜子がビールの瓶を開けると村木が桜子からグラスを受け取りグラスに注いだ。

銀行員時代は桜子もお酒には弱く、ビールのグラスを半分位しか飲んでいないのに

顔が真っ赤になっていた。

今では客が酒を勧めてるれる様になったのでそれなりに強くはなっていた。