The Movie 99話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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菜々の結婚式の前日、お義母さんから着物が送られてきた。

電話でお礼を言うと、

「私が若い頃に着ていたの。美加さんに似合うといいんだけど。」

「ありがとうございます。明日、友人の結婚式なんです。

ぜひ着て行きたいです。」

着物の着付けはなんとか自分で出来るけど小柄なお義母さんの着物は

ちょっと私には小さかった。

だから着る時御はしよりを小さくして着る事にした。

何度も帯を直して、伸びた髪を上げてから1本だけ櫛を挿した。

私の着物姿を見た聡は、

「クリスマス・イブなのに正月みたいだな。」

って笑った。本当は聡も着物を着てもらいたかったんだけど

長身の聡に合う着物がなかったのでスーツで行く事にした。

乃木坂駅にも近い結婚式場は緑がいっぱいで冬にも関わらず

今の季節に合った寒椿やサザンカがたくさん咲いていた。

式は夕方近くに始まったのだけど、かがりが灯されてとても幻想的だった。

もちろん角隠しの真っ白な着物を着ていた菜々はとても綺麗だった。

菜々の妹の良子ちゃんが来ているのはわかるけど今日は徳永君も来ていた。

最近、意外な場所で徳永君に会う。

「良子ちゃんは菜々がお姉ちゃんだから来てるのはわかるけど

菜々と徳永君って知り合いだったの?」

式が終わってから良子ちゃんと会った時に聞いてみると、

徳永君と付き合っているらしい。

どうやら、未来の弟を招待したようだった。

立食バーティーの時、徳永君が私達の元へやってきて

こないだくれた映画の試写会の事を話した。

「先日、お渡ししたチケットですけど、ぜひ美加さん達には観て欲しいんです。

だから、絶対来て下さいね。」

「うん、あの時間だったら仕事も終わってるから行けると思うよ。ね、聡。」

「そうだな。でもあの時間に上映するなんて関係者だけの試写じゃないの?」

聡の質問に徳永君はいたずらっぽく笑うだけで何も言わなかった。

菜々が結婚した事によって、うちの派遣会社の30代は皆、既婚者になった。

菜々は結婚しても仕事は続けるつもりらしく

シンプルなワンピースに着替えた後も私の元に来て、

「妻の先輩には家事と仕事の両立の工夫を教えてもらわないとね。

これからもよろしく。」

と言われた。

『妻』かぁ。言われてみたらそうだけど、あんまり実感がなかった。

もう結婚して2年も経つというのに。

私は菜々に結婚祝いとして夫婦箸を渡した。

「ほら、夫婦って2人で一人前みたいなところがあるじゃない?

箸だって1本じゃただの棒だけど2本で初めて箸として使われるから、

夫婦みたいなものだと思うの。

名前入れといたから良かったら使って。」

縁起がいいと言われてるトンボの柄が入っている名前入りの箸を渡すと

菜々は笑いながら、

「美加らしい夫婦のとらえ方ね。ありがとう。使わせてもらう。」

うちに披露宴のお土産を2人分もらって帰った時、

聡が庭に出てツリーに飾りつけてあるLEDのランプにスイッチを入れた。

そうすると、暗かった庭も明るくなって

クリスマスなんだなぁって実感させた。

菜々のお土産にはクリスマス・イブに結婚式を挙げただけあって

小さなクリスマスケーキがついていた。

私は聡のお義母さんが送ってくれた着物を脱ぐと、深呼吸してしまった。

やっぱり着慣れない着物は色々と締め付けてきつかった。

そこから解放され、普段着に着替えてそのクリスマスケーキに火をつけた。

聡も普段着に着替えて、スーパーで予約してあった

オードブルをお皿に並べ変えて二人で2回目のクリスマスを迎えた。

「菜々、綺麗だったね。」

「やっぱり神前式だと雰囲気が違うな。日本人だなぁって思った。

あれは一種の文化だと思うよ。」

「そうだね。私はドレスだったからそんなにも感じなかったけど。」

歳を重ねるごとにテレビの横に並べてある

写真やフォトスタンドが増えていってた。

結婚式の時の写真。最初の結婚祝いの写真。

京都で森田さんにもらったはがき。

結婚して最初のお正月にお互いの実家に戻って両親と撮った写真。

数えあげたらきりがないぐらい。

二人でケーキを食べている時私は前もって聡に買っておいた、

クリスマスプレゼントを渡した。

それはオーダーメイドのジッポで聡が好きな映画の『007』シリーズにちなんで

ジェームス・ボンドのシルエットが彫り込まれているのを渡した。

「おっ、かっこいい。よく思いついたな。」

「私も007シリーズは好きだから。」

聡は嬉しそうに何度かカチカチ、ジッポを鳴らして

大事そうにスーツのポケットに入れてた。

私は聡からフランクミュラーの
コンキスタドールシリーズの腕時計をもらった。

これなら仕事にもしていく事が出来る。

「ありがとう。高かったでしょ。」

「今年は美加に心配ばっかりかけたからな。そのお詫びも込めて。」

こうやって二人だけのクリスマスもいいけど

いつかは子供を挟んで三人でのクリスマスも迎えたいな。

まぁこれは運だけど。