先に聡が店に入ったけど関根さんはすぐに私の存在にも気がついてくれていつもの笑顔を向けてくれた。
「二人で来たって事は映画のあとかい?」
「そう。今日は『うちのお隣さん』を観たの。あっ、チケット。」
「はい、お預かりします。いつものアイスコーヒーでいい?」
関根さんが私に聞くと聡が間に入った。
「ダメダメ。こいつ、今風邪ひいてるんだ。ホットのカフェモカにして。」
「えっ?美加ちゃん風邪ひいてるの?そしたらカフェモカじゃなくてしょうが湯作ってあげようか?」
「だってしょうが湯なんてメニューにないよ。」
ウィンクしながら関根さんは
「常連さん用の裏メニュー。」
「ありがとう。じゃぁ今回はチケット割引はいいよ。」
「いいんだよ。裏メニューだけどお客さんって事には変わりないだから。お代もいいよ。」
やっぱりいつも通っている店は違うなぁ。
席に着くと、さっきはブランケットがあったから気づかなかったけど寒気を覚えた。
両腕で身体をさすっていると関根さんがストールと一緒にしょうが湯を持ってきてくれた。
「はい。僕特製のしょうが湯。それとこれはうちの嫁さんのストール。使って。」
「ありがとう。」
聡はちょっと私を睨む様に見て、
「この店出たらすぐ病院。お前ん家の近所に24時間やってる病院があるだろう。」
「は~い。」
早々に店を出ると、
「お大事ね。」
関根さんの言葉を聞いて聡と一緒にうちに帰った。
当然、うちへの帰り路には病院に連行された。
うちに帰ると聡は前よりマシな手つきでおかゆを作ってくれて、私に食べさせてくれた。
そしてさっきもらった薬の袋をを出すと、
「はい、これも飲んで。」
と、お水も持ってきてくれた。
ちょっとこんな事されると昔の事を思い出してしまった。
1年以上前にまだ私達が本当に付き合っていた時、聡がインフルエンザになった。
その時私は聡の部屋に泊まり込んで聡の看病をしたんだっけ。
「懐かしいね。前は私が聡の看病をした事があったよね。」
「あの時は助かったよ。やっぱり病気になると気弱になるからな。
でも美加にインフルエンザがうつるんじゃないかって心配だったよ。」
二人で昔の事を話せる様になったのはいい事かもしれない。
「じゃ、俺帰るから。寝てろよ。」
立ち上がって聡は私にキスをしようとした。
私はその顔を押しどけて、
「キスはダメ。風邪がうつっちゃう。」
「うつせばすぐ治るよ。」
そう言って無理矢理キスをした。本当に風邪がうつってもしらないんだから。
私がベットに横になったのを確認して聡は帰っていった。
おかゆを食べているとき、聡がベットにいれてくれた湯たんぽのお蔭でベットの中はポカポカだった。
薬を飲んだせいもあるかもしれない。私はすぐに眠りについた。