翌朝、熱を測ると37.5℃だった。
これぐらいだったら行けるかもしれない。
一応、24時間している病院に朝一番に寄って解熱剤をもらってから会社に出勤した。
聡が先に来てたけど私の顔を見るとしかめっ面をした。
他の社員も何人か来てたから、聡の机の前に行って、
「昨日は早退させて頂いてすみませんでした。」
お辞儀をして自分のデスクに戻った。
聡は何か言いたそうだったけど、他の社員の手前何も言わなかった。
肩にショールをして首にもストールを巻いて完全装備で仕事をした。
いつもだったら外に昼食を食べに行くんだけど、外の風に当たるとまた熱が上がるかもしれないから
社員食堂で食べる事にした。
私が、消化にいいだろうと思って温かいおうどんを食べていると私の席の前に座った人がいた。
それは菜々だった。
「ちょっと、大丈夫なの?そんな完全装備して仕事するなんて。」
「平気。あと2日来れば休みだし。土日でなんとか治す。」
「まぁあんまり休み過ぎると首が飛ぶ可能性もあるからね。やるしかないけど。」
菜々はそう言ってA定食を食べていた。
「それで?係長とはうまくいってるの?」
「ぼちぼちよ。」
「『ぼちぼち』ねぇ。派遣の私が言うのもなんだけど、正社員と派遣社員の恋愛って難しいと思うわよ。
だって私達って契約が継続されなかったら、どこの会社に派遣されるかわかんないんだから。」
菜々が言いたい事はなんとなくわかっていた。
今は職場でも会えるけど、違う職場になった途端に別れてしまう派遣社員が多いからだ。
私と聡がそうならないとは限らない。
だから今回、契約が更新されたのは良かったと思う。
仕事とプライベートは別けなきゃいけないのはわかっているけど。
そう言えば今日はレディースディだな。どうしよう、今日映画に行くの。
やっぱり辞めといた方がいいかな。
でも観たい映画あるし…。映画館でブランケットを借りたらいいかな。
…。やっぱり行こう。私のストレス発散は映画を観る事だから。
いつも通り、定時になると私は帰る支度をした。
それを見た聡も帰る支度をしてる。
そんな事をするからバカ社員どもに何か言われるのよ。その辺分かって欲しい。
先に会社を出たのは私だったけど、駅に向かって歩いていると後ろから聡が追いかけてきた。
「美加!」
呼ばれたからには振り向くしかない。
立ち止まって振り向くと、腕を掴まれた。
「まさかとは思うけど今日、映画観に行くんじゃないだろうな。」
「そうだけど。」
「まだ風邪が治ってないんだ。辞めとけよ。」
聡ってあれこれ指図する人じゃなかったのに。
心配して言ってくれてるのはわかるけど。
「映画は私のストレス発散でもあるの。今の派遣先のバカ社員の言う事を忘れる為に行くの。
大丈夫。映画館で、ブランケットを借りるから。」
『バカ社員』
で、聡は少し笑ったけど私の腕を掴む手はほどかなかった。
「俺も行くよ。」
「それこそバカ社員に何か言われるよ。」
「ほっとけ、そんな奴ら。」
聡と一緒に映画を観る事を断る理由も聡の『ほっとけ』の一言で片づけられたから
結局、一緒に映画を観に行く事になった。