The Movie 21話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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私と聡は会社では無関係を装っていた。


でもそれが逆に不自然に思われてたみたい。


秀美ちゃんは鋭いのか皆にわかってるのか分からないけど、


「ねぇ、美加さん。本当に係長と何の関係もないの?」


「だから~。前にも言ったでしょ?同じ派遣会社だっただけだって。」


「の、わりには係長、やたらと美加さんに仕事を頼むじゃないですか。」


「ここの会社で私が一番、給料がいいからじゃない?」


「給料が良かったら、頼まないと思いますけど。」


あ、そっか。私ってうまく嘘がつけないからなぁ。


「派遣会社で同僚だったから、頼みやすいんじゃないの?」


「前は面識がないって言ってましたよ。」


どんどん泥沼にハマっていく。上手に嘘がつけたらいいのに。


そして秀美ちゃんが最終爆弾を私に突き付けた。


「こないだ美加さんのうちに行ったら係長がマンションの前に立ってたのを見たんですよ。


会社以外で会いますか?」


あれ、見られてたんだ。どうしよう。何て言い訳すればいいんだろう。


「仕事の話でうちに来たのよ。」


う~。苦しい言い訳だ。


「係長は美加さんの自宅、知ってるんですか?」


「社員名簿でも見たんじゃないの?」


「それでもあんな時間に美加さんのうちに行きますかねぇ。」


「係長の仕事が遅くなったんじゃないの?」


なんで私って上手に嘘がつけないの?秀美ちゃんは完全に疑いの目で見てる。


どうしよう。そこに聡から呼び出しが来た。


「係長のお気に入りのご指名ですよ。」


そう笑って自分のデスクに戻って行った。


私は渋々行くしかなかった。


「こないだ話したフランス会社の会食が今日だよね。準備しといて。」


「分りました。」


口ではそう言ったけど、声には出さずに、


「今度こそ会食でしょうね。」


と念を押した。聡はうなずくだけだった。


仕事なら行くしかない。だけど自分もフランス語を喋れるのになんで私まで同行しなきゃいけないのよ。


私はこないだ自宅で渡された資料をまとめて、本当の会食に行く準備をした。


今度はタクシーじゃなくて、会社の車で行く事になった。


運転手の人もいるから、仕事の話しかしなかった。しなかったと言うよりそうせざる得なかった。


本当の会食はほとんど私の出番はなかった。


だって聡はフランス語が喋れるんだから。


聡の後ろに座って、これからの事の書記をしてるだけにとどまった。


こうやって後ろから聡を見ると本当にここの会社の人になったんだなぁって思った。


派遣じゃここまで突っ込んだ話はしない。


帰る時、そのまま会社に帰ると思ったのに運転手の人に、


「近藤さんと打ち合わせがあるから君は先に帰っていいよ。僕達はタクシーで帰るから。」


なんて言った時は、また食事を皆と隠れてするのかと思った。


でも行ったのはカフェだった。


「美加、こないだ言った事考えてくれた?」


「…。」


「黙ってるって事は考えてないんだ。」


「だってそうでしょ?同じ会社で付き合ってるのが皆に知られたらただ事じゃ済まないんだから。」


「俺は構わないけどな。」


「私が困るのよ。派遣先を変えられる事もあるかもしれない。」


社員と派遣社員の恋愛は暗黙だけど禁止されてた。


「それだったら余計いいじゃないか。誰の目もはばからず付き合えるんだから。」


私自身が誰を好きなのかが分からないのに、こんな事を言われても困る。


例の徳永君の事もあるし。


べ、別に徳永君を好きって訳じゃないけど。だいたい弟としか見れない。


そう言えば三村さんにも連絡してなかったな。


…。する必要もないか。変に期待されても困るし。


こうやって考えると私って今、モテ期なの?


三村さんに、徳永君、そして聡。ついでに笹原さん。ついでなんて言ったら悪いけど。


「取りあえず、会社に戻りましょ。あんまり長居してると本当に皆に変に思われるから。」


「俺としては美加と一緒にいる時間が長い方がいいんだけど。」


聡の発言には毎回呆れる。そんなんじゃ仕事にならないでしょ。


「じゃぁ私は先に帰ってるから。」


席を立とうとしたら聡に腕を掴まれた。


「あと20分だけ。」


その顔があまりにも真摯な顔だったから、したがなく立ち上がりかけた腰をまた座りなおした。