私はマスターが好意で出してくれたカシスケーキとポイントがたまったカフェモカをすべて食べて、
「今度聡と話し合ってみる。まぁ聡はヨリを戻そうって言い張るだろうけど。」
「それでも話し合う事は大事だよ。」
「そうね…。」
今日は無料でケーキも食べれたし、ドリンクも飲めた。
少しは関根さんの言う事と考えた方がいいかもしれない。
うちに帰るとマンションの前に人影があった。
そっと近づくと聡だった。
「会社で話せないからうちに来たんだ。話し合わないか。」
マスターの言ってた事もあるし私は聡を自宅に招き入れた。
コーヒーを入れてると、コーヒーを入れてる私の背に聡が声をかけた。
「なぁ、やっぱりやり直さないか。」
私は黙って聡にコーヒーを渡すと、自分のソファに座った。
「聡がいなくなってからどれだけ心配したと思ってるの?
今さら帰ってきてやい直すなんて。勝手よ。」
聡はうつむいて、しばらく黙っていた。
しばらく嫌な沈黙が流れる。
「俺さ、イラクにいた時も美加の事は一度も忘れた事はなかったんだ。
銃声が流れても頭の中に浮かぶのは美加も顔だった。
それだけ忘れられなかったって事だよ。美加に何にも言わないで海外に行ったのは確かに俺が悪い。
でも、空港で美加が引きとめるのが分かっていたから黙って行ったんだ。」
「聡…。ねぇ、何で海外派遣隊に行ったの?」
「テレビで見たんだ。子供達が怪我してるの。俺でも役に立つかなって思って。」
それは聡らしいと思った。
何でも人の為なら何でもする人だから。
でも私は?何にも言われずにどこに行ったかもわからない1年間は?
どんなに聡を探して、生きているのかもわからなくて不安だったあの時間は?
それでヨリを戻すのって自分勝手だと思う。
どれだけ私が聡の事を心配したのか聡は知っているのだろうか。
聡は私の事を一度も忘れなかったって言ってたけど、私も聡の事を忘れなかった事はなかった。
「取りあえず、会社では普通に振る舞うから。でも私達が付き合っていたのは隠し通して。」
「でも俺達、何にも悪い事はしてないぞ。」
「いきなり社員になった人と派遣社員が付き合っているなんて、皆が驚くと思うけど。」
しばらく聡は考えてたけど、私の顔を見て、
「分かった。」
と、だけ返事をした。
「それと…。」
「何?」
「何でも私に同行させたりするのは止めて。皆が変に思うから。」
「…。分かった。でも美加とヨリを戻すのは諦めないから。」
一番、気心が知れてるのは確かに聡だけど、1年以上会えなかったのに今さら
ヨリを戻すのは私にとって難しかった。