守は遠慮がちにうちに上がるとお母さんに勧められるままにリビングに行った。
私も後ろからついて行ってキッチンで紅茶を入れた。
あ…。紅茶買ってこなきゃもうなくなっちゃう。
私はとっておきの紅茶のニルギリ・ティを2杯入れると守に持って行った。
お母さんがケーキを出して、この風景だけを見たら
穏やかな夕食後のお茶の時間に見えるだろうけど、ホントはみんな深刻な事を考えてるんだよね。
「守、これ私のとっておきの紅茶。美味しいから飲んでみて。」
「ありがとう。」
守は紅茶を一口飲むと、
「本当だ美味しい。少し甘いね。」
「でしょ?」
お母さんが私がニルギリの紅茶を出したから少し眉間に皺を寄せた。
「琴音、紅茶が好きなのはわかるけどグラムで1500円もするのは買い過ぎるんじゃないわよ。」
「えっ、これそんなに高いの?」
「うん。だから時々しか飲まないの。少しづつ飲んでるから。
いつもはそんな高いのは買わないよ。」
「お母さん、その紅茶の値段聞いてびっくりしちゃったんだから。」
「これは特別なの。いつも買ってる訳じゃないからいいでしょ?」
妙子さんが、守に
「琴音をどこで見つけたの?」
って聞いてきた。あの場所は二人だけの場所にしたかったから教えたくなかった。
守もそれは同じだと思う。だから、
「琴音から携帯に連絡があって、駅で会ったんです。」
って言ってくれた。ウソをついてしまったけど、あの場所だけは大事にしたかった。
「琴音から話は聞いたの?」
「…。はい、少しだけ。」
「守には助けられてばかりね。裕子さんの時も今回も。」
それを言ったらお母さんは黙ってしまった。
そうだよ。自殺なんてしようとしたのを止めたのは私と守なんだから。
「ねぇ、今日守に泊まっていってもらっちゃダメ?」
「何言ってるの。明日も学校でしょ。」
当然、ダメって言われてけど今日は守から離れたくなかった。
「妙子さん、明日学校は創立記念日で休みなの。」
「琴音、不安なのはわかるわ。でもそこまで守に琴音の家の問題を抱えさせるのはダメよ。」
…。そうだよね。これってうちの問題だもんね。
「俺は今日琴音の事もおばさんの事も心配だから泊まってもいいんだったら泊まります。」
「守…。ご両親にはなんて言うの?まさか付き合い始めた女の子の家に泊まるとは
言えないでしょ?」
「妙子さんには申し訳ないんですけど、正也ん家に泊まってる事にしてくれませんか?
今までも何回か泊まってますし。」
私はお母さんと妙子さんがどう答えるのか不安だった。
「うちは構わないけど…。」
妙子さんはびっくりした様にお母さんの顔を見た。そしてちょっとため息をしてから
「裕子さんが言うならしょうがないわね。アリバイ作りには協力してあげる。
だけど琴音の部屋で寝るのはダメよ。」
守も私も顔が赤くなったけど、お母さんが仲裁に入ってくれた。
「客間があるからそこにお布団を敷きましょう。それならいいでしょ?
琴音は最近、私と寝てるし。」
良かった。今日、泊まっていってくれるんだったら明日の朝もいるんだよね。