正也ん家に着いたらまだ誰も来てなかった。
妙子さんが、玄関に来てくれて、
「まだあの不良息子どもは帰ってないのよ。いったいどこで何してんだか。」
昨日あれだけ飲んで、二日酔いの欠片もしてないみたいだった。
妙子さんは私の後ろにいた三浦さんに気が付くと、
「あら、こないだ来た子じゃない。」
「うん。また正也達に会ってみたいって。」
私が説明してると、三浦さんはさっき買ったケーキの箱を差し出して、
「これ、良かったら皆で食べて下さい。もちろん私達の分も入ってますけど。」
「いいのに。そんな気を使わなくても。」
「ただ単に私がケーキが食べたかっただけですから。」
「そう?じゃぁ、ありがたく頂きますね。琴音、正也がまだ帰ってきてないからリビングで待ってて。」
「うん。」
私と三浦さんはリビングに向かい、妙子さんは私用の紅茶を入れてくれた。
その間に三浦さんが買ってくれたケーキを妙子さんと三人で食べて正也達が帰ってくるのを待った。
「今日で試験終わりなんでしょ?なんで遅いのかな。」
「さぁね。試験が終わったからどっかで遊んでるんでしょ。」
「守に数学、教えてもらう事になってるのに。」
「そう言えば転入試験の日、決まったの?」
「まだ。山田先生が話を進めてくれてるみたい。」
「転校するって決めっちゃったけど、制服代とか教科書代とかかかるのを忘れるんじゃないわよ。
まったく一学期が終わる前に転校なんて決めちゃうだから。」
妙子さんはケーキをあっと言う間に平らげ、煙草に火をつけた。
「私も大原さんが転校しちゃうのは寂しいです。ただでさえ女子が少ない学校だから。
でも転校しても友達でいられたらいいなって思ってます。」
三浦さんは紅茶を飲みながら妙子さんの言ってる事に答えた。
珍しく女の人だけで話してるとようやく正也達が帰ってきた。
「遅かったわね。何してたの?」
「琴音がうちの学校に来るだろ?転入試験に出そうな問題を先生に聞いてたんだ。」
「そんなあっさり教える?」
「だからそこは頭を使うんだよ。もし俺達が他校からうちに転入するとしたら
どんな問題を出しますかって聞いたんだ。あっさりは教えてくれなかったけど
傾向は教えてもらえたよ。」
真吾がそこまで説明してると守が三浦さんに気付いた。
「あれ?前に来た琴音の学校の子じゃないか?」
「うん。正也達にまた会いたいって。正也に聞いてなかった?一応電話しといたんだけど。」
「聞いてない。」
正也は何も言わずにさっさと自分の部屋に向かってしまった。
リビングに残された真吾と守に、
「ねぇ、最近正也、機嫌悪くない?」
って前から思ってた事を聞いてみた。
「そりゃぁ。琴音が井上にあんな事されたら面白くないだろうさ。」
その言葉に飛びついたのは三浦さんだった。
「あんな事ってどうしたの?」
「…。なんでもないよ。」
私は井上君にキスされた事を三人の他に山田先生しか話したくなかった。