幼馴染み 66話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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私は玄関で乱暴に靴を脱ぐと洗面所に直行した。


井上君からキスされた感触がまだ残ってたから。


石鹸を使って念入りに唇を洗う。それでもあの感触は消えなかった。


本当にムカつく。一方的に付き合ってって言ってきた上に無理矢理キスなんてするなんて。


あのキスで転校の事は決定的になった。二度と会いたくない。


私は鏡を見ると思いっきり睨んだ。それは鏡越しに井上君を睨んでる様なものだった。


「どうしたの?バタバタと帰ってきたと思ったら洗面所に行くなんて。」


「ちょっとね。」


まさか井上君にキスされた事なんて言えない。話をそらさなきゃ。


「お母さん、私正也達と同じ高校に転校する。」


「…。そう。お父さんも帰ってきてるからその事言いなさい。」


お父さんは相変わらず野球中継を見ていた。


「お父さん、話があるんだけど。」


「何だ。」


「私、今の高校から正也達の学校に転校したい。」


「…。」


「病院の先生もそうした方がいいって言ってたし、やっぱり安易に学校を決めた私が悪かった。」


「勝手にしろ。」


お父さんの口調で一瞬、お父さんが浮気してるの知ってる事を言ってやろうかと思ったけど


お母さんもそばにいたから辞めておいた。


それに今、離婚なんてされたら転校の費用とかお父さんは出さないと思うから。


私はムカムカした気分のまま自分の部屋に行って着替えた。


机の上には日本史の教科書がある。


転校したら山田先生から日本史、教えてもらえなくなるのかなぁ。


それだけが心配。…。それだけじゃないな。井上君、転校先まで来そう。


あ…。出かける約束してたんだ。どうしよう。約束は破りたくないんだけど


あんな事されたんだから迷っちゃう。


「琴音~。夕飯出来てるわよ。」


「は~い。」


本当は食欲の欠片もなかったんだけど、食べなきゃ。お母さんが不審に思う。


「どうしたの?帰ってきてからイライラしてるみたいだけど。」


「何でもない。」


そう言いながらも夕食のハンバーグを乱暴に突く。


…。正也、井上君からキスなんてされたの聞いたら怒るだろうな。


ご飯食べたら守にだけは言っとこう。


ご飯を食べて食器を洗ってから、私は自分の部屋に戻った。


携帯をバックから出して、守に電話をする。


1コールで守は出た。


「あっ、守?もう家?」


「そうだけど。」


「ちょっと聞いて欲しい事があるんだけど。」


「琴音の口調からすると何か面白くない事があったか?」


「井上君に今日は送ってもらったでしょ?正也も私に変な事するなって言ったでしょ?」


「まさかとは思うけど、あいつ何かしたのか?」


「いきなり抱き付いたと思えばキスまでされた。」


「マジで?」


「マジで。」


「正也が聞いたら怒りまくりだろうな。」


「私だって怒ってるよ。」


しばらく守は無言だったけど、何か対策を考えてくれてるのかな?


「またあいつ、正也ん家に来ると思うから俺から言ってやるよ。」


「そうしてもらえると助かる。それと転校の事、お母さんとお父さんに言ったから。


近いうちに転入試験受けに行くと思う。たぶん受かると思うけど、明日どの辺が問題に出そうか


教えてくれる?」


「分かった。まぁ琴音だったら受かると思うけどな。」


守にほとんどの事を吐き出したから少しはすっきりした。


今日はさっさと寝ちゃおう。嫌な事を考えなくて済むから。