私はお母さんがタッパに入れたピーマンの肉詰めと、わかめのサラダ、ご飯一人分を持って
一ちゃんのアパートに行った。
チャイムを鳴らすとすぐに一ちゃんは出てきて私だとわかると笑顔になった。
「琴音ちゃんかぁ。どうしたんだい?昨日と今日、朝会わなかったけど。」
「ちょっと熱出して学校は休んでたの。」
「大丈夫?」
「うん。もう多分平気。一ちゃん、これ。」
私は料理が入った3つのタッパを一ちゃんに渡した。
「お母さんから。一ちゃん、浪人生だからご飯ちゃんと食べてないと思って。」
「ありがとう。助かるよ。」
まだ温かいタッパを受け取ると笑顔がますます大きくなった。
…。一ちゃんがお兄ちゃんでも良かったかもしれない。
「じゃ、それだけだから。」
「お母さんにありがとうございますって言っといて。」
「うん。」
私はサンダルで一ちゃんの住んでるアパートの3階から駆け足で降りて自分の家に帰った。
玄関を開けたらお父さんの靴があるのに気が付いた。
「お父さん、お帰り。」
私はもう野球中継を見てるお父さんに一応、お帰りの挨拶をした。
「あぁ。」
スポーツは好きだけど、野球はあんまり好きじゃない。人数が多いだけで何が楽しいんだろう。
そして、野球をする訳でもないのに何で野球中継なんて見るんだろう。
「琴音。一君に渡してくれた?」
「うん。ありがとうだって。」
「そう。お父さんのスーツ、明日クリーニングに出すからポケットの中見て頂戴。」
「は~い。」
私は廊下にかけてあったお父さんのスーツのズボンのポケットに手を入れると色んな物が出てきた。
タクシーの領収書。ハンカチ。たぶん、お昼を食べたとこのレシート。
次にスーツのジャケットに手を入れるとチャラとした感触がする物が手に触れた。
ゆっくり出すとそれはちょっと大きめなピアスだった。
…。思わずお父さんとお母さんを見てしまった。
お父さんはテレビを見てるし、お母さんは夕食の準備をしてる。
私はとっさに私が履いてたスパッツにそのピアスを隠して、お父さんにピアス以外の物を渡した。
「ハンカチとかは洗濯でいいんでしょ?レシートとかいる?」
「タクシーの領収書はなかったか?」
「これ?」
私は薄っぺらい紙をお父さんに見せた。
「明日、経理に持っていくから、それは取っといてくれ。」
「わかった。」
「…。他に何も入ってなかったか?」
あのピアスの事を言ってるのかな?
「なかったよ。」
こういうのを必要な嘘って言うんだよね。明日、あのピアスは捨てよう。