江崎はまっすぐ自宅には戻らず、駅の中にある喫茶店でアイスコーヒーを飲んで
少しでも酔いを残さない様にした。
『本気でぶつかれ』
中島はそう言っていたが、どういう風に話し始めたらいいのか分からなかった。
コーヒーを飲みながら、色々シュミレーションをしながら1時間近く喫茶店にいた。
11時になる前には自宅に戻った。
「ただいま。」
「お帰りなさい。早かったのね。」
笑顔で江崎の帰りを待っていた麻子は最近見せる翳りのある笑顔ではなかった。
それで少し安心したのだが、麻子のバックの中から覗いてた薬の袋が気になった。
「麻子、どっか具合が悪いのか?」
「ううん。毎年、この時期になるとちょっと落ち込みやすくなるだけ。」
「…。なんで今の時期はダメなんた?もうすぐで誕生日が来るじゃないか。」
「…。なんでだろうね。」
「話があるんだけど。」
「どうしたの?」
「とにかく座れよ。」
麻子は大人しくいつものソファに座った。
江崎も隣に座った。
しばらく沈黙が続き麻子は落ち着かない様に江崎の顔をみた。
「お前さ、夜中にたまに一人でぼ~ってしてる事あるだろ。」
麻子の顔を見ないで江崎にしては心の準備をしてから聞いた。
「ただ寝れなかっただけよ。」
「じゃぁ『ようちゃん』って誰?」
その時初めて麻子の顔を見た。
少し麻子の顔色が変わった気がした。
「…。」
ストレートに聞いても麻子は答えようとしなかった。
でもそれは想定していた事であった。
江崎は軽く深呼吸をして、
「うちってさ四人家族だったんだ。」
麻子は黙って話を来てた。
「親父とおふくろと姉貴と俺。犬も飼ってたな。
俺が高校の時位かな…。おふくろが倒れてさ、若かったのに脳梗塞になってさ…。
それからうちは段々と壊れ始めたんだ。
親父はアルコール中毒になるし、俺は俺でこの業界に入る為にこっちに来て
大学を卒業してから専門学校にまた入ったんだ。その時に中島に会ったんだ。」
「その時からの友達だったのね。」
「あぁ、頭が切れる奴だなって思っていつも一緒につるんでた。」
学生時代の事が走馬灯の様に頭を過ぎて行った。
そこまで話すと緊張しながら話していたので喉が渇いてきた。
江崎は一旦話を止めて、冷蔵庫から作り置きしてあるアイスコーヒーをグラスになみなみと注ぎ
それを一気に飲んだ。
アイスコーヒーを飲んでいた江崎の元へ行き麻子もアイスコーヒーを入れガムシロップ1つと
ミルクを2つ入れてソファに戻った。
そして江崎がまた話し出すのを待った。