二人で一人 26話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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男性陣の飲み会は明け方まで続いた。


麻子は『男性だけで話もしたいだろう』と、12時には席を離れ寝室へ行った。


その後ろ姿を中島は見て、


「お前、ベット買え変えたの?」


と、聞いてきた。以前、終電に間に合わず江崎の自宅に転がり込んでる事なんてしょっちゅうの


中島がチラリと見えたベットを見てから言った。


「あぁ。」


すでに二人の前にある灰皿にはもみ消した吸殻が山の様になっている。


煙草に火を付けてから、


「お前も人ん家の事じろじろ見んな。」


「だってさ、二人で寝るんだったら何も買い替えなくても前の大きさで十分だったじゃねぇか。」


「前のベットには昔の女の後がある。そう思ったからだよ。」


「随分とまぁ、小林に気を使うな。」


「うるせぇ。」


中島はすでに5本目の焼酎を開けると、


「でもいい傾向じゃねぇの。ようやくお前も落ち着いたんだからさ。」


「そういうお前はどうなんだよ。」


「俺は仕事でめ一杯。今は女はいらないね。


でも少しは考えが変わるかもしれないな。お前見てると。」


「どういう意味だよ。」


「お前ってさ、自分以下の仕事しかできない連中って許せないタイプだっただろ。」


「まぁな。」


「今じゃさ、まぁ多少だけど丸くなった気がするんだよな。」


「そうか?」


「うちは女子社員が小林しかいないから、他の会社の事とかは良くわかんねぇけど


入社したての小林みたいのが来たら、すぐ切れてたと思うんだよ。


ところが、最近は小林に対しても、他の新人に対しても甘くなったって言うか…。


余裕で相手にしてる気がする。まぁ、小林の場合は特別だろうけど。」


中島に言われて初めてその事に気が付いた。


そう言えば入社したての麻子に対しては何をやらせてもイライラしていた。


今一番下の園田に対しても、昔程キツイ事は言わなくなってた。


焼酎を飲む手を休めて考え込んだ江崎に、


「どうしたんだよ。」


と中島が半分からかいながら聞いてきた。


「いや、なんでもない。」


「で?結婚とか考えてんの?」


その言葉にまたむせてしまった。


「けっ、結婚なんてまだ考えてる訳ねぇだろ。」


「女は付き合ってる男と早く結婚したいらしいぜ。」


「誰だよ、そんな事言ったの。」


「俺のおふくろ。」


「…。説得力の欠片もねぇな。」


「まぁ、お前が前みたいに女との付き合い方に問題があった訳は知ってるけどさ、


小林と付き合い始めて考えは変わっただろ?」


「俺の親父の事言ってんのか。」


「まぁな。」


その後二人はしばらく無言になってしまい、ただ煙草を吸っていた。


中島が煙草を芯近くまで吸ってから、


「小林はお前の親父さんの事話してあんのかよ。」


「いや…。言う必要はないと思ってる。あんなろくでなしの男の話なんて。」


「…。俺でも言わねぇかもしれないな。」


「だろ?」


江崎の父親は、妻である江崎の母親が病気になってからアルコールの量が増え


亡くなる時にはすでに廃人近くになっていた。


今は江崎の姉夫婦が面倒をみているが、苦労をしてるのは目に見えてる。


だからこそ、江崎は出来るだけ姉に仕送りをしていた。


その事を知っているのは中島位だろう。


この話をしてしまったのは酔った勢いだったが、中島は他の連中には他言などはしなかった。