二人で一人 21話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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麻子は二人分の簡単な食事を作るとテーブルに並べた。


それはいまどきの女性が作る料理らしからぬ、いわゆる「おふくろの味」的な物だった。


「すげぇな。小林、こんなに料理出来たんだ。」


思わず感嘆な声を上げてしまう。


「私は自炊ですから。」


エプロンを外しながら麻子が答えた。


「取りあえず、ご飯を頂いてからお話は聞きます。江崎さんも今日は何も食べてないでしょ?


空腹で話し合ってもいい事はありませんから。」


麻子の言う事も一理ある。


何年かぶりの普通の食事に江崎は戸惑った。


これが酒のつまみならどれからでも食べるのだが、まさかこんな料理が出てくるとは思ってなかった。


「食べないんですか?」


「…。いや、食う。」


最初に手につけたのは定番の肉じゃがだった。下仁田ねぎがたっぷり乗っていて


料理の腕がどれほどのものかを表していた。


「…。」


口にしても何も言わない江崎に不安気に麻子は、


「お口に合わないですか?」


と、聞いてしまった。


「いや…。旨い。」


その言葉に麻子はようやく笑顔になった。


「よかった。」


「お前、この皿とかどうしたんだよ。」


「近所の100円ショップです。江崎さんの家の食器棚、グラス類しかなかったから。」


江崎はこんな物まで100円ショップで売ってる事すら知らなかった。


いつも外食で済ませているので、生活の基盤的な事に対してはほとんど無知だった。


麻子が作った料理はどこか亡くなった母の味に似ていた。


母親を亡くして何年になるだろう…。


確か自分は高校生だった気がする。


命日さえ覚えていない自分が親不孝者の様な気がしてきた。


「…。俺さ、おふくろが高校の時に死んでるんだよ。」


「…。」


「お前の飯っておふくろの味に似てるな。」


「そうですか…。」


それだけを言って江崎は黙々と麻子の作った料理を食べた。