二人で一人 14話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

「二人で一人」を最初から読む方はこちらから


朝は携帯でセットしておいた目覚ましで目を覚ました。


麻子を起こさない様に素早く止める。


昨晩、乗せたタオルは麻子の額から落ちており首元にあった。


それを拾い上げ、再び冷たくして麻子の額に乗せた。


その冷たい感触で目を覚ました麻子は、


「おはようございます。…。あの、タオル…。ありがとうございました。」


その言葉を無視して江崎は麻子の額に手をやり、自分の体温と比べると


「まだ熱っぽいな。今日は寝てろ。」


自宅に体温計一つも置いてないのが、自分でもバカバカしくなった。


江崎がスーツに着替えようとすると、


「あの…。」


「なんだよ、いちいち。」


「そこじゃないとこで着替えて下さい。」


今まで女性の視線を気にして着替えた事などなかったので、麻子に言われるまで気が付かなかった。


「あ…。わりぃ。」


そう言うと寝室の扉を閉めてリビングで着替えた。


いつもの様にコーヒーを入れてる間に一服して、コーヒーをブラックで飲むと


「じゃぁ、俺行くから。寝てろよ。」


寝室から小さな声で


「はい。」


とだけ聞こえた。


江崎は鍵をして鍵がかかってるのを確認すると会社へ向かった。


電車で通勤するのは好きじゃない江崎はいつもタクシーか徒歩で通勤していた。


既婚者の社員には、


「贅沢な通勤だ。」


と、言われていたが、独身の江崎が使う金と言えば家賃と週三回来てもらってるハウスクリーニング、


毎晩飲む酒代位だった。


相変わらず渡部は一番乗りで出社しており、江崎自身も


(この人はここに住んでるんじゃないだろうか)


と思う程、毎朝早かった。


「おはようございます。」


「おはよう。」


「小林なんですけど。」


「あっちゃんがどうした。」


頑固おやじタイプの渡部さえ麻子の事を『あっちゃん』と呼んでいた。


「昨日、会社で倒れて今俺ん家にいます。今日と明日は出勤は無理だと思うんで。」


叩いてた電卓の手を止め、


「何でお前の家なんだ。」


「あいつが住んでるとこ知らなかっただけですよ。大丈夫です。手なんて出したりしませんし。


知り合いの医者にも診てもらいました。過労だそうです。」


しばらく黙っていた渡部だったが、


「分かった。」


とだけ答えた。