今日は平日だったので予約のお客様も、予約なしのお客様も少なかった。
彰君を席まで案内する時どうしようって思ってたけど、
一応お客様だから、普段通りに席に案内した。
彰君は厨房も、スタッフのいる裏口がなんとか見える席を希望した。
私が彰君を席まで案内していると、皆がざわついた。
そうだよね。辞めた人が客として来たらびっくりするよね。
だけど彰君は平然とした顔をして席に座った。
ここからはウェイター達の仕事になる。皆、どんな対応をするんだろう。
気にはなったけど、受付カウンターからは彰君の席は見えない。
私が他のお客様の対応をしていたら、2時間後位に彰君が清算にやってきた。
今は誰も受付カウンターに人がいなかったから、こそっと彰君に店の様子を聞いた。
「佳那からレベルが下がってるって聞いてはいたけど、ひどいな。
それに前から働いてた奴らの姿が見えない。俺の知らない奴がほとんどだ。」
「高杉さんについていけなくなっちゃって、ほとんどの人が他のホテルに転職しちゃったのよ。
堺さんだって、結婚してからも仕事は続けるつもりだったらしいけど、
ほら、高杉さんが結婚式の招待状を目の前で破り捨てたでしょ?それで働くの辞めたんだって。」
「ふ~ん。まぁいいや。話の続きは佳那ん家で聞くよ。家に入ってていい?」
「いいよ。でも私10時上がり。」
「適当にテレビでも見てるよ。」
そう言って彰君は帰って行った。
彰君が帰った途端に皆が私の周りに集まりだした。特に彰君がいた頃からいたメンバーが。
「柳沢の奴、何しに来たんだろう。」
「どうせ、自分が勤めてるとこと比べに来ただけじゃなのか?」
「そう言えばマネージャーに挨拶もしないで帰っちまったな。」
「今のマネージャーはそれどころじゃないだろう。支配人に呼ばれてるんだから。」
そう。高杉さんは店が開店してから30分もしないうちに支配人に呼び出されていた。
私が話した事を高杉さんにも話すのかな?
逆鱗に触れそうで怖いなぁ。
私が上がる30分前に高杉さんは帰ってきて事務所に入った。
私は高杉さんにつかまらない様にそっと帰ろうとしたけど無駄だった。
だって、タイムカードが事務所にあるんだもん。
「大久保、ちょっと来い。」
「何でしょう。」
「お前、支配人に何言った?」
「別に…。契約社員じゃなくて社員にならないかというお話は頂きましたけど。」
「その他にも俺の事で何か言っただろう。」
椅子に座っていた高杉さんが立ち上がり、段々私に近づいてくる。
私は一歩も動けなかった。
高杉さんが私の襟を掴んで、殴ろうとした時に相馬君が事務所に入ってきた。
「マネージャー!何やってるんですか‼」
高杉さんは舌打ちをすると私を解放した。
相馬君が来てくれてよかった…。でも足は震えてる。
「大丈夫?大久保さん。」
「は、はい。」
思わず相馬君の腕にしがみついてしまった。