20分程してから、鈴を付けたホワイトボードに『柳沢様』って書かれてるのを持って
歩いている女の人が来た。
へぇ…。こういう所はこうやって人を探すんだ。
彰君は立ち上がると、
「僕です。」
「お席の準備が出来ました。ご案内致します。」
とフレンチの店に案内してくれた。
サービスが徹底してるなぁ。
満席だっただけに窓際の席は取れなかったけど、それでも十分だった。
メニューを見て私は思わず、
「うわっ」
と声を上げてしまった。私の予想していた金額より高い…。
よかった。ちょっと多めにお金持ってきて。
「だから言っただろ?高いぞって。」
「だ、大丈夫。」
「一番安いランチのコースにしろよ。今日はワインは抜きだ。」
「うん。」
私達はレディースランチと本日のランチを注文した。
それでも軽く二万円はした。
今日は味を味わうのも勿論だったけど、ウェイターの人やウェイトレスの人達の動きを注意深く見た。
料理の説明もとても丁寧だったし、少しでも水が減っていたらすぐに注ぎに来てくれた。
うちのホテルとは大違いだ。
注文を聞きにきてくれた人が、
「お口に合わない食材などはございますか?」
と、聞いてきた。正直ピーマンが嫌い…。
「あの…。子供っぽいんですけどピーマンが苦手です。」
「かしこまりました。ではその食材をはずしてご用意させて頂きます。」
うちではそこまでしない。アレルギーがある人は聞くけど食べ物の好き嫌いまでは聞かない。
彰君はここで働きたいって言ってたのが分かる様な気がしてきた。
デザートに差し掛かった頃、さっきラウンジに来た男の人が来た。
「柳沢さん、今日はいかがでしたか?」
すぐにでも働く人に対しても敬語で話すんだ…。
「とても満足してます。勉強にもなりましたし。」
「本日の代金は結構です。当レストランの様子をご覧になりに来られたのですから。」
「でも…。」
「気にしないで下さい。その分こちらに来て頂いた時に一緒に働いて頂きますから。」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えます。」
「わたくし、当レストラン責任者の林田と申します。お連れの方もホテルで働いていらっしゃるんですか?」
「はい、彼女もいい勉強になったと思ってます。」
「どうでしたでしょうか?当レストランは。」
「とってもおいしかったです。あき…。柳沢さんがここで働きたいっていうのが分かります。」
「またのご来店をお待ちしてます。」
林田さんはにっこり笑って他の席のお客さんの所へ行った。
高杉さんみたく、目が笑ってない表面だけの笑顔じゃなくて、本当のホテルマンだなぁって思った。
でもよかった。今日の代金がチャラになって。
財布にはギリギリのお金しか入ってなかったから。