彰君がここのホテルを辞めるまであと一週間…。
彰君が他の人達に引き継ぎをしている様子を見ていると
どんどん、「彰君、いなくなっちゃうんだなぁ」って実感してきた。
ご予約のお客様の事でわからない事があったから
彰君が個室で準備をしている所へ行こうとしたら声がした。
橋本さんと彰君の声だ。
なんとなく入りずらくなって、そっと個室を見ていたら橋本さんが彰君に抱き付いた。
思わず持っていた予約者リストを落としてしまった。
その音で彰君は気づいたらしく、個室のドアを開けた。
「佳那…。」
「ごめん。見てるつもりじゃなかったんだけど…。」
橋本さんは私達の様子を見てる。
「誤解だ。いきなり抱き付かれたんだから。」
「うん、分ってる。でもびっくりしちゃって。」
私は橋本さんの方を見た。橋本さんはうつむいたまま私の横を通り抜けて出て行ってしまった。
「ねぇ、橋本さんって彰君の事諦めてくれないのかな。」
「こればっかりは彼女の気持ち次第だからなぁ。でも俺がここを出て行ったら忘れるよ、きっと。」
「簡単には諦めないと思う。」
「なんで?」
「…。なんとなく。」
あぁいう風に大人しい子に限って思い込みが激しいのは私の友達を見てたらわかる。
「今日、お前ん家行っていい?」
「いいけど。」
「これからなかなか会えなくなるだろ?その事で話ときたい事があるんだ。」
「分かった。」
そこまで話していたら、高杉さんが私達の方へ来た。
「何してるんだ。もうすぐ開店だぞ。こそこそしてないでさっさと開店準備しろっ。」
「すみません。」
私は落とした予約者リストをひろい、受付カウンターに戻った。
彰君にお客様の事で確認しときたい事があったのにな。