Tomorrow is another day 第2章 始めからの方はこちらから
優人と麻子が結婚して1年。
麻子は相変わらず出版社で働いていたし、優人も自分のサロンで働いていた。
ただ1つ違っていたのは、麻子が妊娠2週目だった事だ。
麻子は1年近く考え抜いて『子供を産む』決意をしたのだ。
結婚した事によって精神的にも安定してきたのだろう。松村医師から処方される
精神安定剤も半分以上に減り、睡眠薬がなくても眠れる日が増えてきた。
妊婦になった事によって眠気が来る効果もあったのかもしれない。
中島の子供、勝もその年の4月に小学生になった。
入学式の時、父親の中島が出席したのはわかるが、なぜか優人と麻子も出席した。
「勝君のお父さんって二人いるの?」
「まぁね。パパみたいな人。」
1年という短い時間ではあったが、勝も口が達者になってきた。
入学式で勝の名前を呼ばれると、勝は元気よく返事をして立ち上がった。
その姿を後ろから見ていた麻子は、
「友達の子供の成長で自分の年齢を感じちゃうわ。早いわね。もう1年生なんだもの。」
「お前だって、治療が進んでるんだろ?いつかは母親だ。そっちの方が俺的には信じられないよ。」
2か月後、麻子が妊娠する事を暗示する様な事を腕を組みながら勝の姿を見ていた中島が呟いた。
「僕達って変な三人ですよね。」
「そうだな。」
「いいんじゃない?勝君の為にも。」
麻子が山下姓になっても三人の関係は続いていた。
時々、あのレストランに行ってはマスターが店の柱に、勝の身長を書いてくれた。
1年で5cm近く身長が伸び、子供の成長を表していた。
千夏は来年の夏に、刑務所から出る予定になっていた。
だが、中島は迎えに行くつもりはなかった。
一生このまま独身でもいいと思ってもいたし、どこかで縁があれば再婚してもいいと考えていた。
優人には言わなかったが麻子以上の女性と巡り合うとは思えなかった。
近くにいる分、麻子の事を考えてしまう。それはまさに、優人と会う前の麻子と同じ事だった。
恵まれているのか、恵まれていないのか、近くに麻子がいる事によって苦しむ事はなかった。
むしろ二人の幸せを願っていたし、自分の子供の様に勝に接してくれてる麻子には感謝していた。
最初の結婚記念日の日。いつもの店には行かず自宅でお祝いをした。
小さなケーキを買って、1本のろうそくを立てる。
それを二人で消した。
「ねぇ、麻子さん。『Tomorrow is another day』って言葉知ってる?」
「えぇ、『風と共に去りぬ』でビビアン・リーが最後に言うセリフでしょ?」
「そう『明日は明日の風が吹く』ってセリフ。でも本当の意味は『結局、明日は別の日なのだから』って
意味なんだよ。」
「知らなかった。『明日は明日の風が吹く』っていうのが有名だから。
でもこっちの方が前向きな感じがして好き。」
「そうだね。僕達も毎日を一生懸命生きて、明日の風をちゃんと受け止めていこうよ。」
「そうね。これからもよろしくお願いします。」
麻子は頭を下げると、優人も頭を下げ、
「こちらこそ。来年は三人でお祝いしようね。」
麻子はまだ膨らんでもいない、お腹を触り、
「そうね。」
と、つぶやいた。
中島にも明日が来る。
勝にも明日が来る。
この世の中で生きている人々、みんなに明日が来る。
その日を一生懸命生きていくのだろう。
***Fin***