Tomorrow is another day 第2章 始めからの方はこちらから
小さなチャペルで優人は麻子が現れるのを待っていた。
パイプオルガンの音が響きわたる。
ガチャリと音がして扉が開かれ、父親と腕を組んでいる麻子の姿が見えた。
逆光で麻子の表情は見えない。
静かに優人の元へ歩み寄り、父親から優人へ麻子の腕は渡された。
その時男性二人は無言でうなずいた。
神父の誓いの言葉の後に、
「では誓いの口づけを」
と、促されると麻子のベールをゆっくりと上げてから二人は口づけした。
その途端に出席者全員から拍手がされた。
中島と勝は一番後ろの席からその様子を見ていた。
麻子の友人が中島との事を覚えていたので、中島は少し遠慮したのだ。
「パパ、お姉ちゃん綺麗だね。」
「そうだな。」
レンタルで借りた子供用の正装で勝は父親を見上げた。だが、その顔は複雑そうだった。
「どうしたの?」
「いや…。綺麗だなって思ってるだけだよ。」
その場で婚姻届を書く事の段取りになっていた。
書く場所は証人の場所だけだった。出席者の誰もが両家の親が書くのだろうと思っていたら
優人が最後列の中島を見た。
中島には伝えてあったのだろう。証人になって欲しいと。
中島が優人達の前まで進む間に出席者が少しざわついた。優人の親戚も麻子の大学時代の
友人も中島の事は知っていたからだ。
その視線を浴びながらそれでも一歩ずつ二人の前に歩み寄る。
「麻子、山下君。おめでとう。俺でいいのか?証人。」
「私達の間では色々あったでしょ?だからこそあなたに証人になって欲しいの。」
中島は胸ポケットから万年筆を取り出すと自分の名前などを書いた。
あと一人はなんと、真亜子だった。中島より後ろの方にいて気が付かなかった。
これには優人の方が驚いた。
「麻子さん、いつの間に加山さんと?」
「それは女性同士の秘密。」
「最後の最後まで驚かせてくれるね。」
新婚の二人にとって因縁のある二人が婚姻届の証人になるとは、自分達でもおかしいと思ってしまい
思わず笑ってしまった。
なぜ、新婚の二人にとって会いたくないはずの二人が証人になっているのに、
新婚の二人も証人の二人も笑っているのか、他の出席者には全くわからなかった。
麻子の父親は、憮然とした表情で、
「なんで、あの二人が証人なんだ。普通親だろう。」
「まぁ、いいじゃないですか。なんだか四人共楽しそうですよ。」
こっそりと麻子の母親は父親に告げた。
チャペルを出、花束を後ろを向きながら放り投げると女性陣は群がって欲しがった。
ほとんどが既婚者にも関わらず、こういう縁起がいい物は欲しいらしい。
そのあとは優人の友人がセッティングしてくれた、二次会の様なものをした。
そこには両家の両親や親戚はおらず、もっとフランクな感じになり完全に優人は気が抜けていた。
麻子はしみじみと自分の指にある結婚指輪を見ていたが、麻子の友人が興味津々に見てきた。
「変わったデザインね。」
その指輪はループを輪にした様な形で、指でその線をたどってもたどっても、延々と続く物だった。
優人の、『永遠の愛』を示した様なものなのだろう。
優人の友人にどんどん酒を勧められている姿を少し離れた席で見ながら、麻子は微笑んだ。
「あの人らしいわ。」