Tomorrow is another day 第2章 始めからの方はこちらから
千夏が受けていた事情聴取は約1ヶ月にも及んだ。
毎朝早くに起こされ、密室の様なところで何度も同じ質問をされ、段々と千夏の体力も落ちていった。
体力だけではなく精神的にも疲れてしまい、いかに自分がマズイ事をしたか知らされた。
その後検察庁に連れて行かれ、また同じ様な事を聞かれ続けた。
結局、裁判で千夏に言い渡されたのは保護責任者遺棄の刑だった。
優人や中島に取った行動は証拠不十分で起訴されなかった。
勝は幼いながらも生きようとする力が働いたのか日に日に良くなってきた。
最初は果物をすりつぶしたものしか食べれなかったのが、段々と普通食になっていき
千夏の両親も安心した。
中島も当然、休みの日などは見舞いに行った。母親が離婚してから父親に会えてなかったので
見舞いに行く度に喜んだ。
休みの日にいつもの様に見舞いに行くと、折り紙をしている勝がいた。
「あっ、パパだ。」
「どうだ?元気になってきたか?」
「うん。ご飯が美味しくて嬉しい。」
「よかったな。これ、お前が好きなさくらんぼ。日本のじゃなくて『アメリカンチェリー』って言うんだぞ。」
「本当だ。なんだか時々、ママが買ってくれるさくらんぼより赤いや。」
「種に気をつけて食べるんだぞ。」
「うん。ねぇ、パパ。ママはいつ僕に会いに来てくれるの?」
5歳という幼い子供に『保護責任者遺棄』という言葉も判るはずもなく、中島は苦しい言い訳をした。
「ママはちょっと遠いところにお出かけして、しばらく帰って来れないんだ。」
「じゃぁ、僕はこの病院から出られたらどこに行けばいいの?」
「パパのおうち。」
この件で親権は千夏から中島へ移ったのだ。
「パパのおうちって前に僕も住んでいたところ?」
「そう。」
「ママも来るの?」
「ママは来ない。さっき言ったみたいに、ちょっと遠いところに行っちゃったんだ。」
「…。」
「勝は男の子だからママにしばらく会えなくても我慢できるな?」
「…うん。」
勝の頭を撫でてやると、しばらく二人で折り紙をしたり幼稚園の話をしたりした。
面会時間ギリギリまでいると、中島は立ち上がり、
「じゃぁ、パパは帰るから。また来るな。」
「今度はいつ来てくれる?」
「今度の土曜日かな?」
「絶対だよ?」
「あぁ、絶対だ。指切りしようか。」
中島は勝と指切りをして、別れた。最後まで後ろを見ながら手を振り続けた。