マンションのボタンを押すとすぐに優人が出て
『合鍵で入ってもいいのに。』
『最初だから、まだ慣れなくって』
マンションの入口でインターフォン越しに二人は話した。
心配気に優人は部屋に麻子を招き入れた。
「ホント、遠慮なく入っていいのに。」
「ありがとう。次からはそうする。」
「それで何があったの?」
報告するか迷ったが、優人も麻子の編集部に
出入りしている所だったから、
絶対に同僚にからかわれると思って報告する事にした。
「会社の新人の女の子が私が誰かと付き合ってるって気付いたの。」
「若い子はそういうの敏感だからね。」
「質問、質問の繰り返しでその子にだけ、こそっと話したの。
優人さんと付き合ってる事。」
「うん、それで?」
「その子が大声でびっくりしちゃって、結局あなたと付き合ってる事が
編集局中に広まったの。」
深刻な悩みだと思っていた優人は意外な顔をして、
「別にいいじゃないかな。」
「だって優人さんはうちの編集局にも出入りしてるでしょ。
絶対からかわれるわよ。」
「だって僕達、別に悪い事してる訳じゃないんだから大丈夫だよ。」
「皆にからかわれるのって恥ずかしくない?」
「麻子さんは心配性だなぁ。大丈夫だよ。皆、そのうち忘れるよ。
麻子さんの編集局は忙しいじゃない。僕達の事なんて気にしないよ。」