私は慌てて母に、
「父さんの部屋借りるね」
光を連れて亡き父の部屋へ入った。父の部屋に入ると線香の匂いがした。
きっと毎日母が父の仏前で線香をあげているのだろう。
離婚したとはいえ、嫌いで別れた2人ではないのだから。
光はキョロキョロしながら父の部屋を見て回り、
「親父さんって読書家だったんだな。本がびっしりある。」
ここまで光の車で来る途中、うちの事情は話てあったので、
彼は私の父が亡くなっているのを知っている。
そして、彼も両親が離婚しているそうだ。
幼い時だったから親父の顔は忘れたよ、と笑って話ていたけれど、
子供の頃はきっとキャチボールでもしたかっただろう。
2人で少し感慨深気に父の部屋を見ていたが母の、
「友梨香ちゃん、まだなの?」
の、声に我に返り父が使ってたであろうスウェットの上下を光に渡した。
「とりあえず、いつまでもその格好じゃおかしいからこれしかないけど、
これに着替えて。あと洗顔もね。」
「俺、この格好気にいってるんだけどなぁ。」
「アンタはいいでしょうけど、母にはいつまでもその姿は見せられないわ。
とりあえず着替えて。」
私は再び、スウェットを光に押し付けた。
渋々着替えた光を洗面所に連れていき、
たまに帰った時に使う洗顔の数々で顔を洗ってもらった。
これで元の光に戻った訳だ。