とっさに右手に書類を持ち代えるとすでに遅し、
上島君がさっと私の左手を取って、
「あっれ~?紺野部長。凄い指輪してますね。
俺なんかじゃ買えないダイヤの指輪だ。」
わざとフロアー全体に響きわたる声で皆を集めた。
わらわらと私のオフィスに人が集まる。主に私の部下だけど。
上島さんが私のダイヤのリングを見て、
「これはほぼ1000万近くはしますよ。このカット。
ブリリアントカット、相当な物ですよぉ。」
「上島さん、やけに詳しいわね。」
「いずれは玉の輿ですから。」
だけど上島さんの話が本当なら、芸能人ってやっぱりお金持ちなのねぇ。
って、こんな高価な物もらえないわよ。でも、皆はダイヤのリングに釘付け状態。
とりあえず左手を皆から引っ張り出すと、
「私、早退するから。皆、自分の仕事は出来るわよね。
中畑君、その資料頂戴。家でチェックするから。」
私は逃げる様に家に帰った。帰る途中で光にメールを送る。
『光へ。やっぱりこんなに高価なダイヤな指輪貰えないわ。
返したいからオフの日でもいいからうちに来て』
返信はすぐ来た。
『もう、友梨香に渡しちゃったから友梨香の物だよ。
それより、結婚式どこでする?』
…ダメだ。会話がメールだと成立しない。
これは光がうちに来るのを待つしかないわね。
と、言ってもいつ来れるか分からない人だけど。