「友梨香、ちゃんとシンプルな方はいつもつけていてね。俺もしてるから」
「どうしても?」
「どうしても!」
「…判った。」
でも私の不安は的中した。
シンプルバージョンの指輪をして会社に行ったら、部下の女子の娘達が、
すぐに私の指輪に気付いて騒ぎ始めた。
「あれ~、紺野部長。その左手に光る指輪はどうしたんですか?
彼氏からのプレゼントですか?」
「まっ、まぁね。どうしてもしてて欲しいって言うから。
でも私が指輪ってガラじゃないでしょ。」
「ううん。そんな事ないですぅ。シンプルだし、部長位のクラスになったら、
それぐらいのアクセサリーしててもおかしくないですよ。
でも左手って事は結婚を視野に入れてる彼氏なんですか?」
まさか、プロポーズされたなんて言えない。ここは仕事の話で切り抜けよう。
「はいはい。この話はここまで。
上島さん、安藤部長に提出するデータは揃えたの?
松村さん、中山君とやる新案は出来上がったの?ほら、みんなさっさとする。」
私は両手を叩いて皆を仕事に戻し、自分は私専用のオフィスに入った。
そして、外から見られない様にブラインドを降ろすと、
コーヒーを入れ一息ついた。
指輪1つでこんなに大騒ぎになるんだから、
光と付き合ってるのが皆に判ったらどんなに大騒ぎになるだろう。
考えただけでも、頭が痛い。それを光は
『なんとかなる』
の一言で片付けてくれちゃって。本当に大丈夫なんだろうか。
不安ばかりつのる。まぁ、光もブルムンのリーダーを務めているぐらいだから、
何か考えているんだろうけど。