紗由理は両手を挙げて、
「ブラボー!これで2カップル成立ね。」
踊り始めんばかりだった。
「待ってよ。まだ、私も気持ちに整理がついてないの。」
「何よ。今『好きみたい』って言ったじゃない。今さら…。」
「面と向かっては言えないと…思う。ほら、私、天邪鬼じゃない?
だから思ってもない事をベラベラ言っちゃうと思うのよね。
って言うか、あいつ…」
「『あいつ』じゃなくて『光』」
紗由理は目を閉じて私の両手を固く握りつぶやいた。
「それに、光君はそんな天邪鬼な所も好きなんじゃないの?
多分そうだと思うけどなぁ。光君らしいって言えばそうだし。
そういう風にあたふたする友梨香ちゃんが可愛いんだよ、光君にとってはね。」
さすが、色んなドラマでヒロインを演じてる女優の紗由理は違う。
私が思いもしなかった事まで言ってくる。
翌日、紗由理が言った事と私が自覚した光への想いでなかなか
仕事がはかどらなかった。
26歳にして部長の地位を獲得している私なのに
部長としてはあるまじき失敗をしたり、
喫煙所でぼ~っと考えこんだりして部下から、
「部長、体調でも悪いんですか?」
なんて心配させちゃった。中には鋭い娘もいて、
「部長、彼氏でも出来たんですか?」
なんて聞いてきた。
『彼氏!!』
あぁ、光が彼氏になるなんて考えられない。
だって光は国民的アイドルのBLUE MOONのメンバーなんだから。
私みたいな一般人には縁がないはずなのよ。
たまたま、同居人が女優だっただけなのに…。