私達は2人で1人みたいなものだから。
部屋に入り、まだ慣れない大きな台所の
大きな冷蔵庫からビールを2本出すと、
「現場で何か言われたの?元気ないけど。」
1本を紗由理に渡しながら紗由理に何気なく聞いた。
紗由理は、ビールを受け取りながら、苦笑いすると、
「さすが、友梨香ちゃんだね。
龍雄さんの前の彼女がいきなり楽屋に乗り込んで来たの。」
「楽屋に?じゃぁ、業界の人?」
「うん…。歌手の渡辺 マリアさん。結構長く付き合ってたんだって。
でも龍雄さんが別れ話をしたんだけど、
納得しなくてずっと龍雄さんにつきまとってたの。
で、煮を切らした龍雄さんが私の事を話したみたい。」
「じゃぁ、渡辺さんの中では完全に切れてなかったのね。」
これは武内さんのミスだと私は思った。
女の執念は強い。それが恋心だとなおさらだ。
そこに今、付き合ってる彼女の名前を言ったら、
その矛先は彼女に向かうに決まってる。
武内さんはそれが分かっていなかった…。