ホームルームが終わり、職員室に戻ろうとした時、山崎に声をかけられた
「先生!」
振り返ると息を弾ませながら、僕の元に走ってきた山崎の姿があった
「どうした?」
「卒業式の曲、どうしても尾崎さんの『卒業』にしたいんです。これは、ほとんどの
生徒の意見です。先生が言えないなら、私が校長先生とかに言います」
以前の山崎の発言とは思えない事を彼女は、僕の目をしっかりと見て言った
「このまま卒業したくないんです。私達ってこれから高校を卒業するでしょ?
その後、大学や専門学校や就職先で絶対壁にぶつかると思うんです
でも、それをそれぞれみんな乗り越えて行くと思うんです。それが『卒業』に
当てはまるかどうかわかりませんが、壁にぶつかった時『卒業』を思い出すと
思い出すと思います。最初の「卒業」が高校の「卒業」なんです。だがら…
だから…歌わせて下さい」
一気に話すと山崎は頭を下げた
その姿を廊下の窓ごしに、ほとんどのクラスの生徒が見ていた
きっと同じ想いだったのだろう
僕は
「わかってるよ。君達の気持ちは。今日の職員会議に提出してみるよ」
「…ありがとうございます!」
僕は放課後の職員会議に卒業式で、尾崎豊の『卒業』を卒業生に歌わせる事を
提案してみた
案の定、反対意見が多く僕は窮地に立たされた
安倍先生が
「まぁ、彼らも私達に反抗の意味を込めて歌う訳でもない様ですし、いいんじゃ
ないですか?」
ほんわかとした口調で、僕のフォローしてくれた
職員室の外では数人の生徒が聞き耳を立ててるのが、なんとなくわかった
おそらくその中には山崎もいるだろう
あれだけ、主張していたのだから
しかし、昔ながらの考えの教頭は
「あんな歌詞、教師に喧嘩を売っているとしか聞こえないですよ。絶対ダメです」
意思を変えようとしなかった
突然、職員室の扉が開き、山崎が怒りを隠せない様な表情で
「何で分かってくれないんですか!私達は別に先生方に喧嘩を売ろうなんて
思ってません。先生方だって、今まで生きてきて色々壁があったですよね
それを乗り越えて今の先生方があると思うんです。完全な人間なんていません
先生方も迷う事だってあると思うんです
その壁を乗り越えた時が1つの『卒業』だと思うんです
私達は今回、この学校を卒業します。最初の「卒業」です。だから尾崎さんの
『卒業』を歌わせて下さい。お願いします」
山崎が一気にしゃべると、おそらく一緒に聞き耳を立ててたであろう生徒も
「お願いします!!」
全員が頭を下げた
教師一同は、その生徒達を呆然と見続け、心に何か響いたものがあった様だった