山崎は「また、明日」と言っていたが翌日休んだ
だがその次の日は何事もなかった様に登校してきた
職員室へ向かう僕の背中を思いっきり叩きながら
「先生、おはよ~」
走り去って行った
僕は何も言えず、その後ろ姿を見送ってしまったが、その後ろ姿すら
少し未練があった
職員室に入って今日のスケジュールを確認しながら、山崎の事を考えた
(もう、山崎を『女性』としてみるのは辞めよう。それが僕と彼女の為なんだ
辞めるんだ、辞めるんだ…)
「辞める」という言葉を何度も繰り返し頭の中で考え
僕の中から「山崎という女性」は消えていった…
残ったのは、いじめられても1人頑張り続け
3人の幼馴染みがいる、「僕の一生徒」だった
ホームルームへ向かい、出席を取る時
山崎の名前を呼んだ時、山崎は元気に返事を
したものの、右手で身体をかばう様にしっかりと抱きしめていた…
やはり、後ろから突然、僕が抱きしめたのが「恐怖感」として
残っているのかもしれない
だとしたら、僕は彼女にとって一生の傷を残した事になる
あの瞬間、思わず抱きしめてしまったが
僕はなんて罪深い事をしてしまったのだろう
松本君に睨まれてもしょうがない…
もしかしたら、あの付属大高の3人には紳士協定があって
彼女には
「女に観れない」
などと言いつつ、下心を持たない様にしていたのかもしれない
僕はそんな事を考えながら、ホームルームを続けた
「じゃぁ、みんな進路も決まったし安心だな。あとは、卒業式で歌う曲を決める事
それは考えとけよ」
僕は前もって作っておいた、アンケート用紙を配ろうとした
が、男子生徒の櫻井が
「センセー、それ必要ないで~す。俺達もう決めちゃったから」
(はぁ?じゃぁ、この35枚のアンケート用紙はどうなるんだ)
配る手を止めて、櫻井の意見を聴くことにした
「いつ、決めたんだ?」
「ほら、最後の山崎も就職先が決まったし、先輩達の話を聞いてたら
卒業ソングは自分達で決めるって聞いて。じゃぁ、決めちまおうって事になって」
櫻井は、このクラスでリーダーシップを発揮してきた生徒だから
おそらく彼が率先して決めたのだろう
「ふ~ん、じゃぁ曲名は?」
「鉄板で尾崎豊の『卒業』!いいっしょ」
櫻井は親指を上げてウィンクした
確かに、僕の青春時代にも尾崎豊は聴いていたが『卒業』は歌詞的に卒業式に
使うのは、無理がある様な…
僕は壇上で生徒名簿を机に押しつけながら、がっくりとし
「さ~く~ら~い~。『卒業』は僕も好きな曲だけど、多分他の先生方が許さないと
思うよ…歌詞がねぇ…いや、いい歌なんだけどさっ」
「じゃぁ先生、職員会議で通してよ」
「簡単に言うな!僕はペーペーなんだ。僕の意見なんて通るか!」
「そこをなんとか!可愛い生徒の為に!」
(こういう時だけ…)
僕は頭を抱えたが、僕も高校の卒業式で尾崎豊の『卒業』が歌えなくて
悔しい想いをしたから、なんとか彼らの想いを叶えたかった