卒業  46話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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山崎は「また、明日」と言っていたが翌日休んだ


だがその次の日は何事もなかった様に登校してきた


職員室へ向かう僕の背中を思いっきり叩きながら


「先生、おはよ~」


走り去って行った


僕は何も言えず、その後ろ姿を見送ってしまったが、その後ろ姿すら


少し未練があった


職員室に入って今日のスケジュールを確認しながら、山崎の事を考えた


(もう、山崎を『女性』としてみるのは辞めよう。それが僕と彼女の為なんだ


辞めるんだ、辞めるんだ…)


「辞める」という言葉を何度も繰り返し頭の中で考え


僕の中から「山崎という女性」は消えていった…


残ったのは、いじめられても1人頑張り続け


3人の幼馴染みがいる、「僕の一生徒」だった


ホームルームへ向かい、出席を取る時


山崎の名前を呼んだ時、山崎は元気に返事を


したものの、右手で身体をかばう様にしっかりと抱きしめていた…


やはり、後ろから突然、僕が抱きしめたのが「恐怖感」として


残っているのかもしれない


だとしたら、僕は彼女にとって一生の傷を残した事になる


あの瞬間、思わず抱きしめてしまったが


僕はなんて罪深い事をしてしまったのだろう


松本君に睨まれてもしょうがない…


もしかしたら、あの付属大高の3人には紳士協定があって


彼女には


「女に観れない」


などと言いつつ、下心を持たない様にしていたのかもしれない


僕はそんな事を考えながら、ホームルームを続けた


「じゃぁ、みんな進路も決まったし安心だな。あとは、卒業式で歌う曲を決める事


それは考えとけよ」


僕は前もって作っておいた、アンケート用紙を配ろうとした


が、男子生徒の櫻井が


「センセー、それ必要ないで~す。俺達もう決めちゃったから」


(はぁ?じゃぁ、この35枚のアンケート用紙はどうなるんだ)


配る手を止めて、櫻井の意見を聴くことにした


「いつ、決めたんだ?」


「ほら、最後の山崎も就職先が決まったし、先輩達の話を聞いてたら


卒業ソングは自分達で決めるって聞いて。じゃぁ、決めちまおうって事になって」


櫻井は、このクラスでリーダーシップを発揮してきた生徒だから


おそらく彼が率先して決めたのだろう


「ふ~ん、じゃぁ曲名は?」


「鉄板で尾崎豊の『卒業』!いいっしょ」


櫻井は親指を上げてウィンクした


確かに、僕の青春時代にも尾崎豊は聴いていたが『卒業』は歌詞的に卒業式に


使うのは、無理がある様な…


僕は壇上で生徒名簿を机に押しつけながら、がっくりとし


「さ~く~ら~い~。『卒業』は僕も好きな曲だけど、多分他の先生方が許さないと


思うよ…歌詞がねぇ…いや、いい歌なんだけどさっ」


「じゃぁ先生、職員会議で通してよ」


「簡単に言うな!僕はペーペーなんだ。僕の意見なんて通るか!」


「そこをなんとか!可愛い生徒の為に!」


(こういう時だけ…)


僕は頭を抱えたが、僕も高校の卒業式で尾崎豊の『卒業』が歌えなくて


悔しい想いをしたから、なんとか彼らの想いを叶えたかった




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