卒業  45話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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山崎はとっさに僕の腕を掴んで投げ飛ばそうとしたが、僕だということを


思い出したらしく


「先生、私は先生の彼女じゃないですよ…予行練習ですか?」


体を固くし僕に言った


「いや…その…予行練習じゃないんだ」


その途端に床に叩き投げられた


両手を自分をかばう様にまわし、山崎は1歩僕から離れた


「先生、冗談もほどほどにして下さい。私には福島先輩がいるの知ってるでしょ?」


僕は腰に手をあてながら、立ち上がり


「そうだよな。違うんだって、言っても分かってくれないだろうな」


「どういう事ですか?」


僕はズボンについた埃をパンパンと払い説明した


「僕が君の事を『女性』として見てると思ってたんだ。いや、思ってる


一生徒じゃない。1人の女性として見てる1人の男だ


今まで、どっちだろうって思ってたけど、今ので確信したよ


僕は君の事を…」


「嫌!先生からそんな言葉聞きたくない!私が悪いんです。こんな所に


暗い中2人っきりで来たから…」


「いや、君が悪いんじゃない。担任なのに気持ちを押さえきれなかった


僕が悪いんだ。ごめんよ…これからはちゃんと君の担任として接するから」


「…」


「帰りはちゃんと送るから」


「いいえ、松本君に迎えに来てもらいます」


そこまで拒否されるとは思っていなかったので、僕はショックを受けた


だが、あの様な行為をしたのだから当たり前かもしれない


「松本君って付属大高の?」


「はい、彼が一番ここに詳しいので」


「そうか、それがいいかもな」


山崎はダッフルコートのポケットから携帯電話を取り出すと


松本君に電話をしている様だった


その時も山崎は僕と一定の距離を取っていた


「5分位で来てくれるそうです」


振り返りながら僕に告げた


(えっ、5分?)


僕は意味もなく慌ててしまった。先程、山崎に抱きついたという罪悪感がある


のかもしれない


松本君は本当に5分もしないで車でやってきた


僕と山崎の微妙な距離に不信感を感じた様で


「何でガッコのセンセがこんな夜に生徒と、こんなとこにいるんですか?」


山崎は


「ちょっとほら、私って問題児だったじゃない?だから思い出話をしに


卒業前にドライブしたの。ごめんね。私達の秘密の場所教えて」


僕をかばってくれたが、僕が何も言わず下を向いていたので


「あすかに何かしたんですか?じゃなかったら、そのまま送り帰すでしょ」


僕を睨みつけた


山崎は懸命に


「何もなかったのよ。ただ先生が免許取立てで、車の移動が出来なくて


松本君のヘルプを頼んだの。ただ、それだけ」


だが、山崎が懸命に言い訳をすればする程、僕に疑惑の目がかかった


「センセ、あすかに投げ出されたでしょ?背中の埃が取り切れてないですよ」


「えっ」


僕は思わず背中を見てしまった


だが、背中なのでよく見えない


背中を見ようと、僕1人でぴょんぴょん跳ねながら背中を見ているので馬鹿みたい


だった


その僕の姿を山崎と松本君は呆れて見ていた


「とにかく、センセがあすかに何をしたかはあすかが解決したみたいですから


聞きませんけどあすかは僕が送ります。センセの車も僕が移動して


帰りやすい様にするんで鍵、貸して下さい」


「鍵は付いてるままだよ。階段登るのにライトが必要だったからね」


松本君は山崎の手を取って下まで降りると、僕の車を大通りに降りやすい様


移動してくれた


「じゃぁ、もう夜も遅いんで、僕があすかを家まで送って来ます。ここで失礼します


センセは道、わかりますよね」


「あ、あぁ。大通りに出たら判るよ。じゃぁ山崎、明日な」


山崎は警戒する様にさっと松本君の後ろに隠れたが


「…ドライブ楽しかったです。また明日」


凍りついた空気だからこそ聞こえる小さな声で僕に伝えた




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