卒業  44話 | Vicissitudes de richesse ~七転八起~

Vicissitudes de richesse ~七転八起~

人生、転んでも立ち上あがれば勝つんですよねぇ
だから、転んでも立ち上がるんです
立ち上がって、立ち上がり続けるんです

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山崎は福島のいる県外で就職する事は決めた様だが


一緒には住まないと僕に告げた


僕はてっきり一緒に住むものだと思っていたから理由を聞いた


「それじゃぁ、自立できないし、一緒に住んでたら多分福島先輩に甘えちゃうし」


「福島はそれで納得しているのか?」


「ん~、一緒に住みたいみたいだけど、理由を言ったら分かってくれた


だけど、近所に住んで欲しいって」


そうだろう。あれだけ、山崎の事を大事にしているのだから、目の届く所に


居て欲しいだろう。だけど、なぜか2人が一緒に住まないのはホッとした


山崎は登校の問題があったが、成績も良かったし、なによりモデルという


大きなバイトをして県内では有名だったので就職先はあっさり決まった


高校卒業で大企業の受付嬢になったのだ


やはり華があるのだろう


卒業旅行で作った萩焼のコーヒーカップは直接、山崎が福島へ泊りがけで


持って行った様だ


僕は何故か


(何も泊まりがけで持って行かなくてもいいのに…)


嫉妬心が少し芽を出した


帰って来た時、嬉しそうに


「あの萩焼のコーヒーカップ、物凄く気に入ってくれて『大事にするね』って」


僕に報告してくれた


そのあと


「でも卒業したら、こんな風に電車で何時間もかけて


会いに行かなくても済むんですよね」


頬を赤らめながら僕を見つめた


その視線が僕には眩しすぎて僕は視線を反らした


僕はやはり山崎を「女性」として見ていたのか?


福島に嫉妬しているのか?


それを確かめる為に家庭訪問と称して山崎の家を訪ねた


山崎家のインターフォンを押すと山崎の母親が出てきた


「あら?渋谷先生。どうなさったの?」


「…いえ。もうすぐ卒業ですから…あすかさんはいらっしゃいますか?」


(卒業だからって家庭訪問するかっ…)


内心そう思ったが、言い訳にはそれしかなかった


「ええ、帰ってますよ。今、呼びますね」


僕は広い玄関で山崎を待っていた


山崎は赤い毛糸のワンピースを着て、リビングから出てきた


「あれ?先生。どうしたの?」


「もうすぐ卒業式だろ。ドライブしないか?…ほら僕と君とは色々あったから」


しどろもどろになりながろも、僕は山崎をドライブに誘った


生徒をドライブに誘ったと、教頭などに知られたら


何を言われるかわからなかったが


誘わずにはいられなかった。そして、自分の気持ちにケリをつけたかった


山崎はしばらく、僕を見ていたが


「いいよ。待ってて。コート着てくる。あとお母さんにも言ってくる」


しばらくすると、真っ赤なダッフルコートを着てきた


僕は取ったばかりの免許で赤いミニクーパに、山崎を乗せ行くあてもなく


車を走らせた


車の中では今までの、思い出話を最初していたが、それも尽きてしまい


沈黙が流れた


すると、山崎が


「先生、私の私達の秘密の場所教えて上げる」


突然、道案内をしてくれた


最初は大通りだったが段々、山道になり車1台しか通れない様な道に入った


免許を取立ての僕にとっては、厳しい道のりだったが、なんとか山頂についた


そこには灯台の様な建物があり、山崎は慣れた足着きで、トントンと最上まで


登って行った


「先生もおいでよ」


暗かったので車のライトを付けたまま、僕は怖る怖る最上まで登った


おそく、昔は使われていたのだろう


もう、映らない望遠鏡がいくつかあった


よく、こんな所を見つけたものだ


冬の澄んだ空気で星が綺麗に見える


山崎は「ここが定位置」と言わんばかりに、崩れかけてくり抜けてる窓に


両頬に顔を置き、空を見ていた


そして独り言の様に


「ここって、付属大高の3人とよく来てたの。秘密の場所だよ


あの3人はもう免許持ってるからね


あっ、彼女と来る時はここ穴場だから連れてきたら?」


その言葉に僕は後ろから山崎を思わず抱きしめていた




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