僕と福島と山崎の3人は小さなCafeに入った
男性陣はそれぞれホットコーヒーを、山崎はホットカフェラテを注文した
福島は
「どうしてリストカットなんて続けるんだ?」
優しく聞いた
しばらく黙っていた間にそれぞれ注文していた飲み物がやってきた
山崎はそれを一口飲むと
「浩二さんがスナックに連れて行って、自分の愛人を紹介するの…何人も…
愛人が変わる度に『俺の女だ』って。私、『父がお世話になってます』とでも言えば
よかったんでしょうか…」
「先生、「浩二」さんって誰ですか?」
「彼女の父親だよ」
僕はぼそっと福島に教えてあげた
福島は山崎に
「今、お父さんの通っているスナックはどこかな?」
「ありあけ商店街にあります」
次の福島の言葉に僕はびっくりしてしまった
「今日、お父さんに挨拶に行ってもいいかな?」
「えっ?」
突然の事で山崎も僕もびっくりしてしまった
だが、福島は真面目に言ってるようだ
「…ろくでもない人ですよ。あの人は。会ってもがっかりするだけですよ」
「あすかとお付き合いしてるのを、ちゃんと報告したいんだ
もちろんお母さんにもにもね」
夜のスナック街だったので僕も同伴する事にした
そこには酔い潰れている、山崎の父親がいた
山崎は嫌悪感を隠せない様に父親を見ると、スナックの入口で
「あの人が私の遺伝子上の父親です。言った通りでしょ。がっかりするって」
指差しながら言った
山崎は父親に近づくと
「浩二さん、浩二さん。私の彼が挨拶したいって」
「う~ん、どの男だ」
ほとんど、ろれつの回らない口調で僕達を見ると僕達に近づいた
近づくにつれ、酒臭い口臭がする
カウンターの中では面白そうに女性が1人、煙草を吸いながら僕達を見ていた
福島が
「僕があすかさんとお付き合いさせて頂いてます。福島 忠義と言います」
父親は福島を靴の先から頭のてっぺんまで見ると
「あ~す~か~。いい男見つけたじゃないか」
山崎の肩に腕をまわそうとしたが、山崎がカウンターにあった水をコップごと
父親の顔にかけ
「気安く触らないで!」
父親から離れた
山崎がここまで怒りの感情を見せるのを見たのは初めてなので
僕らはびっくりしてしまった
だが、父親は懲りていない様で
「お~、冷て。そうそう、福島君だっけ?カウンターの中にいる女
あれ俺のお・ん・な」
自慢気に僕らに言う父親が僕らは信じられなかった
「お父さん、そういう風に愛人の方をいちいちあすかさんに紹介するから
あすかさんはリストカットなんて酷い事をしてるんですよ。ご存知ですか?」
「ん~。知ってる、知ってる。うちのかみさんがいちいち報告してくるからなぁ」
「知ってて、今でも紹介してるんですか?」
福島の声は怒りで震えていた
「今のところ、死んでないじゃないか」
その父親の言葉を聞いた途端に福島は父親を思いっきり殴った
カウンターの中の女性は急いでカウンターから出てきて
「何すんのよ!」
かばう様に父親を慌てて抱き起こしたが
「あんたは最低の人間だ!あすか、渋谷さん行きましょう」
おそらく、福島が僕の事を「先生」と呼ばなかったのは
学校側に連絡が行くのを恐れたから配慮してくれたのだろう
僕らはスナックを出るとファミレスに入った
「あすか、あすかの父親に対して失礼かもしれないけど、あんな奴の為に
リストカットして、自分の体を傷付ける事ないよ」
「でも、あんな奴の遺伝子を受け継いでいるのかと思うと、自分の血を
入れ替えたくなるんです。なんで、あんな奴の子供に産まれたんだろう。私…」
山崎は額に両手を組んで涙をこぼした