山崎は傷はふさがったのだが、精神的ショックもあり2週間程入院していた
福島は、1週間戻っている予定だったが、それをのばし
毎日山崎の見舞いに通っていた
銀行と山崎の所属しているモデル事務所も
これからの対応に困っている様だった
モデル事務所の方は、山崎にリストカット癖があるのは把握していた様だが
銀行側は寝耳に水で、アップになる首元に切り痕があるのはイメージダウンに
繋がると、山崎をイメージキャラクターから外そうという
幹部の意見が多かったらしい
だが、実際には山崎が銀行のイメージキャラクターになってから
売上は上がり、問い合わせも増えたので、どうしたものかと即決は出来ずに
いるらしかった
山崎と福島は2週間という時間をかけて信頼関係を取り戻つつある様だった
歩けるのだが、山崎は甘える様に福島に車椅子を押してもらい度々、病院の庭で
2人話込んでいた
僕はあの時、感じた怒りが山崎を「女性」として見ているのではないかと
少し不安になったが、庭で寄りそう2人を見てホッとしている自分に自分自身も
安心した
やはり、山崎は僕の「生徒」なんだ
結局、これからの季節を考えると秋と冬になるので、首元はストールやマフラーで
隠せるだろうと言う意見が大多数を占め、山崎は銀行のイメージキャラクターを
続ける事になった
問題は、山崎の精神的な事だった
僕は、あんな事をしたのだから、イメージキャラクターは続けられないだろうと
思ったが、山崎は
「ご迷惑をおかけしてすみません。もし、続けてよかったら私を使って下さい」
退院後に頭取に頭を下げた
その時には福島も一緒に同行した
「彼女があの様な行為をしたのは、僕の不適切な発言が元です
すみませんでした。どうか、彼女に仕事をさせて上げて下さい」
福島も深く頭を下げ、しばらく頭を上げなかった
頭取は優しい声で2人に
「まぁまぁ、頭を上げなさい。山崎さん、命は粗末にしちゃいかんよ。親御さんを
泣かせる事になる。それにこんなに素敵な彼がいるじゃないか。それと…」
「あっ、福島です」
「福島君、君も彼女を悲しませる様な事を言っちゃダメだな。若いとはいえ
男は女性を守るもんだ。それと逆の事をしてどうする」
「…すみませんでした」
「今回の事は決して許される行為じゃないが
これでどれだけの人に迷惑をかけたか十分わかっただろう
もう二度としてはいけないよ、いいね」
「…はい」
山崎は小さくつぶやいたそうだ
だが、僕は山崎がリストカットを繰り返さないとは限らないとは思っていた
あの瞳の奧にある深い闇は福島も気づいているだろうが、今回の事だけでは
取り除けないと思ったからだ
じゃなかったら、頭取の言葉にも即答しているはずだ
どうしたら、あの闇は取り除けるのだろう
そして、あの闇の理由は何なんだろう