日が傾き始め、健二が歩くと共に影の形も大きく変化する。


周りには、民家が立ち並び、閑静な住宅街という言葉が


様になっているなと健二は心に思った。人通りはあまりなく


すれ違う人と眼が合うと、気まずい空気に襲われるような雰囲気だ。


健二は、辺りを一通り見渡したのだが、時間がかかるのも面倒なので


携帯電話を取り出し、住所をナビゲーション欄に記入した。


GPSからの受信に成功し、何とか、お目当ての場に辿りつくまでの道筋が


携帯画面にアップされた。


「この道をまっすぐ行って、右‥か。少し入り組んでるな」


健二が、携帯画面を見ている間に、犬の鳴き声が聞こえたが、その声に


反応するまでの判断は、今の健二の頭には働いていなかった。








日がすっかり沈み、辺りに闇が立ち込めると共に街灯が、健二を照らし出した。


健二は高鳴る鼓動を少し、落ち着けようと息を大きく吐いた。


目の前には、畑岡智樹の表札が、堂々と掲げてある。


周りの庭や家の外観から察するに、生活に苦労しているとはとても思えないような


立派な雰囲気をその家は醸しだしていた。



健二はインターホンを押した。


健二の胸は今、後ろから声をかけられたら止まってしまうのではないかという程の


高鳴りを見せている。その時、声が聞こえてきた。


「はい、どちらさま?」


「あの、すみません。笹木という者なのですが、お父様は御出でですか?」


「あ、はい。少々お待ち下さい」



しばらくして太い声とともに、父親が玄関の戸を開けてきた。


「君は誰だね?」


「あの‥突然押しかけてすみませんが‥フィリアという人をご存知ですか?」


その瞬間、健二はここにいては殺されるような身の危険を感じた。


正直、今すぎにでも逃げ出したい衝動に駆られている。


父親が口を開く。


「何?君、見たところ、学生くらいの年だと思うんだけど、何なの?」



「私は‥笹木健一という者の弟です。今Sホテルの殺人事件としての有力な


手がかりを握る人間として、警察に身柄を拘束されています‥。」



「それで、俺が何なのかな?俺が関わっているとでも言いたいのかね?」



父親の眼が、狂気に満ちている。これは、これ以上は無理かと


足を、返そうとした時、一つの賭けに出た。これで踵を返したら、もう二度と


この人物と会えないような気がしたからだ。もしこれで、駄目ならもう


この物語はおしまいだ‥、そう健二は確信した。そして、言葉を放つ。









「あなたの別名はパールですね?」








明らかな狼狽の色が見て取れた。健二は賭けに勝ったような高揚感と


試練はこれからあるという、使命感が心を交錯させた。







「少し待っていなさい」


健二は、パールという名をついさっき聞いた。飼い主が必死になって宥めていた


飼い犬の名前だ。きっと、天は自分に味方してくれる‥そう信じたかいがあったと


健二は、天を仰いだ。


父親が持ってきたのは車のキーだった。これからどこかに行くのだろうか?


少し、健二は身の危険を感じたが、健二の今の心理状態は最初の不安状態よりも


高揚状態の方が明らかに勝っていた。






二人は、車に乗りこんだ。