車に乗り込んだ畑岡はマルボロを取り出し、口に咥えた。
そしてライターに火を灯す。その一連の流れの中にも、少し
野蛮臭い雰囲気を、畑岡は醸し出している。
健二は黙ったままだ。
その時、畑岡が口を開いた。
「君は、どうして、パールと知っているのかね?」
健二の心の中では、答えを模索する事で一杯だ。
もし、ここで正直に言ったとすれば間違いなく、
この先の進展は望めないだろう。だが、下手をすると墓穴を掘る事になる。
今の健二に無駄な時間はない。
健二は予め考えていた回答を、畑岡に吐いた。
「フィリアさんと呼ばれる方から聞いたんです。あなたは、あの日、Sホテルにいましたよね?」
Sホテルにこの畑岡という人物がいたとしたら、
この計画は、フィリアと呼ばれる人物が計画した事になる。
美紀さんの母親に電話した時に少し感じてはいたけれど、
これでフィリアという人物は、美紀の母親と同一人物という事になる。
なぜ、このような横文字を持った、
まるで闇の窃盗団のようなネームを持っているんだ?
畑岡と呼ばれる人物は、パールという名を持っている事で間違いなさそうだし
これで最低でも二人は、
ある組織のようなものに属して特有のネームを持っているという事だ‥。
でも、待て。どうして俺の兄は、罪をなすりつけられたんだ?
この二人がわざわざ、兄に罪をなすりつけなければならない
理由なんてあったのか?
有るとすれば、兄は何か特別な事を知ってしまったというのだろうか‥。
でも、もしそうなら‥
隠蔽工作も、簡単に出来てしまう連中なら兄を殺す事は容易だっただろう‥。
生かした理由はなんだ?
兄を殺すより生かした方が、奴らにとってプラスな事があったというのか?
分からない。何も‥。
察するに、美紀の父親の方は何も知らないようだった。
だが‥、少し気になるのは美紀という人物の事だ。
刑事の中川は、美紀さんの血液が何か重要な役割を果たすような事を言っていた。
重要な役割とはなんだ?一体、誰に対して?
健二が頭で、起きた出来事を整理している最中、返答が帰ってきた。
「Sホテルにいたとしよう。それで俺は何になるのかな?
たまたま泊まっていただけという風に考える事は
君の幼稚な頭では考えられんかね?」
畑岡はあからさまな挑発をしてきた。
もう少し冷静な大人の対応をしてもらいたいと健二は思う。
「幼稚ですいません。
ですがあなたがチェックインした記載はないとフロントはおっしゃってましたよ?」
健二は反応を伺った。眼を見てすぐに察した。泊まりに来てはいないと。
「そんな証拠はどこにあるのかね?
君みたいな子供相手に話をするのは疲れるんだが。
そろそろ帰ってくれないかね?さもないと‥。」
右手には、サバイバルナイフだ。しかし今の冷静な健二は動揺の色はなかった。
「殺すなら殺して下さい。でも良いんですか?今ここで殺せば、家の前での惨劇で
家族だけでなく、近所の住民からも責められますよ。逃げ場がなくなるのは時間の
問題だと思いますけど。それでも良いんですか、畑岡‥いやパールさん」
畑岡は苦虫をを噛み潰したような表情をして車を発進させた。
「どこに行くんですか?」
「黙ってついてこい。」