今日は、相変わらずの空模様だ。
まるで、それが自分の心中を表してしているように感じた。
家を出る時に健二の部屋を訪ねようかと思ったが、
授業開始までの時間に間に合いそうもなかったので
健一は学校へと向かった。
美紀は、寝息を立てて静かに眠っている。
学校で過ごす時間、気が休まる事はなかった。
昨日の雰囲気だと確実に、両親との対話になるだろう。
尋常な考えの持ち主ではない気がするという悪寒が
健一の心情をいっそう曇らせる。
何とか、美紀を救う手立てを考えなければ‥
学校が終わり、健一は指定されたホテルに向かった。
周りを歩く人々が風のように過ぎ去っていく。
歩く速度の早い都会では追いつくのが精一杯だ。
健一は転んでしまった子供が、泣いているのを
親が宥めているところを通りすぎた。
親が子供の面倒を見るのは当たり前なんだよな‥
健一は、心の中で美紀を重ねていた。
途端、健一の携帯が、鳴る。
健二からだ。
「‥美紀さんが‥いない」
健一は一度浮かんだ不安を消し去り、すぐさま平静を保った。
まさか‥な。
「周りを散策していてくれ。ある程度、探してもいなかったら
家で待機していてくれないか?」
「‥わかった」
ーPM 8:00 Sホテル ー
健一は、制服姿のままホテルに入り、ロビーに向かった。
いかにも、大物な人間達が出入りしていそうな雰囲気である。
健一が、周りの人間を観察している最中、
そこに一人の男性が声をかけてきた。
「君が、健一君だね。話は伺っているよ。こっちに来てくれ」
男はそういうと、エレベーターに乗り28階を押した。
ー 間違いない、この男は公園にいた奴だ ー
このままこの男に着いていって大丈夫なのだろうか‥。
頭の中に不安が過ぎるのも束の間、部屋の前まで来た。
「さぁ、ここだ」
その後、しばらくして、健一は心が凍りつく事になる。
目の前には、昨日会った母親がいた。
「私は美紀の父だ。とりあえず、ここに座りなさい。」
父親が声を発した。
健一は指定された椅子に座った。
「まずは、君がここに呼ばれた意味を教えようか‥。
君は、なぜ美紀の事情を知っていたのかな?」
「‥それは‥」
健一は、言葉を選んでいた。その間に母親が口を開いた。
「とぼけるんじゃないよ。昨日、私に散々詰め寄った癖に」
そして煙草に火をつけた。昨日の会話を思い出させる。
「まぁまぁ、少し落ち着け。君はその件について
どうしようというのかな?部外者には、全く関係のない話だと思うが」
部外者呼ばわりして、距離を離そうとする魂胆があからさまだ。
健一は、不快に感じた。
「美紀さんは一人の人間です。二人の間に生まれた子供です。
少しは本人の事も考えてあげて下さい」
他の人間もこの二人の取ろうとしている行動を知っていたら
誰もが投げかける言葉だろうが、敢えて健一も放った。
「君の考えは分かるよ。でもね、こちらにも考えに考えた末の
結果なんだ。どうか分かってくれないか?」
「都合が良すぎます。あなたは、もう一人の息子さんの命が
助かる。そして隣に座っているあなたは、大金を得られる。
美紀さんだけが、不幸になる。理不尽極まりないじゃないですか」
父親が、眉間に皺を寄せ、何かを言おうとしている最中、
母親が口を開いた。
「大金て、あなた、大層な言い草ね。別に美紀が死ぬって訳
ではないの。それに美紀は私の言う事には素直に聞くから。
もう疲れたのよ。だから、美紀を預ける話に賛成した。大金も
手に入るなら言う事はなかった」
大金で子供を売ってるようなものだと言いたい衝動に駆られたが
それは、寸での所で抑えられた。
「どこに預けるつもるなんですか?」
「アメリカの研究機関だ。そこで美紀の血液を取り出して
その血液成分を抽出して改良する。信頼性に疑問の余地はあるけど
大金が手に入るという事でコイツの賛同を得た。
そもそも美紀の血液が元でないと息子は助からないからな‥」
その時、後ろでドアが開き、廊下の光が差し込んだ。
まさか‥
健一は急いで、部屋から出ようとした。
その時、母親が笑い声をあげた。
「美紀は、私が呼んでいたのよ!いずれ直接話さなきゃ
ならなかったから手っ取り早い方がいいでしょ?
だから、今日ここに来るように呼んでおいたの。
でも、美紀が目の前にいたら話せる内容は限られてくる。
だから、少し隠れてもらってたのよね。
案の定、美紀がいないと
みんなベラベラ話すんだもの。笑っちゃうわ!」
健一が、掴みかかるよりも先に、父親の方が
罵声を上げた。
健一は、急いで、美紀を追った。
走る後ろ姿はやはり美紀だ。
「待て!!」
健一は急いで美紀の後を追った。美紀は階段に向かっている。
上か‥。まずいな。
窓を通して映る景色からは、雨が美紀の涙のように降り注いでいた。