美紀は最上階へと向かい、屋上に繋がる扉の前で足を止めた。




健一は追いつくと肩を震わせて泣いている美紀を思い切り抱き寄せた。




「お前は、大丈夫だ。何も心配いらない。」



言葉で伝えられる事には限界がある。



今の美紀の心情を穏やかに出来る人間がいるなら教えて欲しい。




どうにか、彼女を救って欲しい。



「私の、生きてきた時間はなんだったの‥?」



健一には、この言葉の的確な返答が出来ない。答えがないのだ。



ただ、抱きしめる事しか出来ない。




健一はハンカチで美紀の涙を拭おうとポケットから取り出した。





その時、クローバーピアスが美紀の視界に入った。





その瞬間、美紀は健一を振りほどき、窓ガラスを割った。






ガラスの破片が美紀の右腕に突き刺さり、血が流れ落ちる。




「この血が私の人生を左右することになるとはね‥」





「おい、大丈夫かよ!すぐに処置するぞ!」




「近寄らないで!」




美紀は、近くにあるガラスの破片を手に持ち、健一へ突き出した。




「おま‥え、何をしているんだ?」




「健一、今まで有難うね。




本当に短い間だったけど、唯一私が存在している意味があった気がしたよ。




人間なんて、実際死んでしまったらいつかは忘れ去られてしまう生き物。




いつ死んでもいいや、なんて思ってた。




でもね、健一が私の存在意義を教えてくれた気がする。




この世界に生きてきて私の眼に見える世界、耳に入ってくる世界、




全て幻でもいいって思ったけど、




健一が存在している世界だけは、現実でないと嫌だって心が言ってる。




もう少し早く会えたら私達の人生は変わっていたかもしれないよね‥。




神様もたまに間違えちゃうのかな‥。」




「美紀!!!」




「これも天命かもしれないね。本当に有難う‥」





美紀は、ガラスの破片を喉元に突き刺し、倒れた。