80%の確率で緑内障? | 眼科医と眼科専門MRのためのデータ分析あれこれ!!

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かれこれ20数年の間、眼科領域専門のデータ分析に携わってきた経験の備忘録です。
一般的なデータ分析の内容も書きますが、眼科にこだわって書いていきます。

こんばんは

今日もベイズの定理の話題です。
ベイズの定理の勉強をしていると、よく目にする例題が
「ある病気Xの有病率が疫学調査からわかっている状態(例えば0.03%とか)で、
その病気を診断する検査について病気である人がその検査で陽性にでる確率(90%とか)と
病気でない人がその検査で陽性にでる確率(20%とか)が与えられた状態で1人が検査で
陽性に出た場合、その人が病気Xである確率を求めなさい」というものです。

緑内障ガイドライン【第3版】に日本国内の40歳以上の緑内障の有病率は5%、
視野検査(プログラム)の感度と特異度は80%前後との記載があったので、
この条件を利用して、健康診断で感度と特異度が80%の視野検査受けた人が
緑内障と判定された場合に、専門医を受診して緑内障と確定診断される確率を
計算してみましょう。
今日はこれまでと感じを少し変えて物語調に書いてみました。
物語の中ではベイズの定理を使わずに説明し、後でベイズの定理を用いて確率が一致する
ことを示してみますね。

8月のある日、日報を書きにオフィスに戻るとベテランMRのAさんが席にいた。
チラと表情をうかがうと何やら浮かぬ顔をしてパソコンを眺めている。
私が「Aさん何か心配事でも?」と声をかけると、Aさんは「ああ、健康診断結果が返却されてきてね、
視野検査で緑内障の疑いがあるからって専門医の受診を促されてしまったよ!」
「そうですか、それは心配ですね」というとAさんは「緑内障ガイドラインでは視野検査プログラムの
感度と特異度は両方とも80%位って書いてあってね、あーあ俺も8割緑内障かって感じなんだよ」と
Aさんは肩をすくめた。
「緑内障ガイドラインでは有病率は平均5.0%でしたよね?」と問いかけると「そうだよ」とAさんは
上の空で答えた。
「仮に緑内障有病率を5.0%、今回の視野検査の感度と特異度をガイドラインの通り共に80%とすると
Aさんが緑内障である確率は17%程度ではないかと思うのですけど」というとAさんは
「え?なんでそんな数字になるの?」と身を乗り出してきた。
「検査が病気の人を病気と識別する力が感度で、病気でない人を病気でないと識別する力が特異度です。
仮に一万人の人がこの検査を受けたとするとこんな表になるはずですよね?」と言いながら
2×2表(下記)を書いた。

・検査を受けた人10000人
・有病率5%なので上記10000人中、緑内障の人(GLA+)は500人、緑内障でない人(GLA-)は9500人
・検査の感度が80%なのでGLA+の内、検査+となる人は500×0.8=400人
・検査の特異度が80%なのでGLA-の内、検査-となる人は9500×0.8=7600人
「この表で間違いありませんよね?」と確認すると「そうだな」と頷くAさん。
「いまAさんはこのグループですよね」といって、私は検査結果の陽性のところに丸を書いた。

「そうだ」と再び頷くAさん。
「であれば、Aさんはこの2300人の中にいて、その内緑内障の人は400人だから
400人/2300人で17.3%が緑内障ってことですよね?」と説明した。
「なるほど、私が専門医の診断を受けても緑内障である確率は2割弱なんだ」とAさんの顔に
少し生気が戻ってきた。
「ありがとう。君のお蔭で気持ちが楽になったよ」とAさんはオフィスを出ようとしたので、
私は「確率が17.3%となって80%よりかは低くなりましたが、全体の有病率5%からすると
約4倍の確率なので必ず専門医を受診してくださいね!」と念を押したのは言うまでもない。

いかがでしたでしょうか?
さて、上記の問題をベイズの定理をつかって計算してみましょう。
前にも示した通り、ベイズの定理は下記でした。


そして今回のデータを当てはめると
①事象Aは検査結果で「検査+」と判定される。
②事象Bは緑内障と確定診断される。
③P(A):検査結果で「検査+」と判定される確率
↑表から2300人÷10000人=23%
④P(B):緑内障と診断される確率
↑これは有病率で5%
⑤P(B|A):検査で緑内障と検査結果が出て、かつ緑内障と確定診断される確率
↑これが知りたい
⑥P(A|B):緑内障で検査結果が陽性となる確率
↑これは感度で80%
上記をベイズの定理の式にいれると
P(B|A)=(0.8×0.05)/(0.23)=17.4%と一致しました。

いかがでしょうか?
ベイズの定理が説明できるMRさんってカッコいいですよね!!