14・生命前駆体、って

深海底の熱水噴出孔にそそり立つチムニー内の小さな小さな穴っぽこの中で、彼は満を辞してそれを開始した。
元素を合成し、アミノ酸を発明し、タンパク質に編み上げ、ヌクレオチドにまで高めて、そいつをさらにRNAの形に組み立てた。
エネルギーをつくり出す材料はその中におおむね含まれてるので、今度はそれを収めるパーソナルスペースづくりだ。
脂質をかき集め、「自分の世界」を覆って外膜とし、閉じた系を実現した。
膜の内外に陽子勾配をつくり出し、脂質のすき間にチャンネルを設けて水素イオンをくぐらせることで、エネルギーを得る術を覚えた。
こうして、チムニーの半導体を満たす電流から独立した、オリジナルなエネルギー機関を持つ生命前駆体が完成したのだ。
・・・と、ここまでは、実は彼が意図してやったことじゃない。
自然の偶然が積み重なった結果、操作なしで稼働する完全に自動的・自律式な機構が組み上がったんだ。
その中に、いよいよ彼が目覚めることになった。
自覚というものが、この瞬間に確立された。
彼は、まずどうしようとしたか。
目的などというものは、なにもない。
生きるという概念が、まずない。
体内に据えられたエネルギー機関が生み出すエネルギーは、エネルギー機関そのものを動かすためにのみ使われるという、ただただ純粋なエネルギー循環体だ。
しかし、そこに宿る彼は本能から・・・生命として必ず駆り立てられるべき性質から、こう直観したはずだ。
「動くぞう」「動きつづけるぞう」、そして「とまるもんか」、と。
彼は、生きよう、などと考えられるほど成熟してはいない。
ただし、「死んではならない」ということだけは、完全に知っていた。
ここに、彼は誕生した。

つづく

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13・メタン生成菌、って

太古の地球に酸素はないが、二酸化炭素がある。
ミトコンドリアからさかのぼり、二酸化炭素による呼吸によって酸素を生成することを覚えたのが、葉緑体(植物細胞における葉緑素)だ。
葉緑体は、水と二酸化炭素からグルコースという栄養素をつくり、そのおつりとして酸素を排出したにすぎないが、毒でもあり爆発的燃料でもあるこの気体が、ご存じのように、生命体の形質を劇的に変えることになるんである。
しかし葉緑体は、こちらもご存じのように、日光を駆動源として必要とするため、深海底で活躍はしてくれそうにない。
そこでさらにさかのぼり、とても古いタイプの細菌である、メタン生成菌の登場なのだ。
この子は、水素を二酸化炭素呼吸で酸化させ、メタンと水を排出するのと引きかえにATPをつくるようだ。
そのメカニズムは、ミトコンドリアのカラクリとそっくりで、エネルギー製造装置としてはこの子が最古・・・とは言わないまでも、開発特許により近いところにいることは間違いない。
さて、いよいよ時代をさかのぼりきり、深海底のチムニーに場所を戻す。
ここは、煙突の外に二酸化炭素の海、内側に水素まじりの熱水がドバドバ湧いてる、って環境なんだった。
微細な孔が空いたチムニーの中では、電流がビリビリ通り抜けててエネルギー供給がゆき渡り、系内のエントロピーは負の値を示す、極めて安定な状態。
数億年もの歳月をこの場所で過ごした彼は、物質を合成しまくって、ついに生命の素材をそろえたところだ。
そこで、ずっと思い描いてたメカニズムを構築してみよう、という気になった。
すなわち、自律して駆動・循環するエネルギーマシーンを、だ。
前置きが長かったが、ようやく生命機械制作プロジェクトが実質的に立ち上がる。

つづく

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12・ミトコンドリア、って

はるか後の世に現れる、ミトコンドリアの話をしたい。
このエネルギー精製マシーンさえ手に入れば、「動物」の稼働メカニズム(生命発生段階からしたらとてつもなく高度な熱力学の循環系)を簡潔に説明できるようになるからだ。
ちょっと前に触れたATPは、動物の体内で流通するオロナミンCみたいなもので、細胞はこれを受け取って分解することで活力を得て駆動を開始し、その活動の集積が実質的に動物全体を動かすんだった。
そんなATPをつくり出すのが、ミトコンドリアだ。
その構造とATP生成のプロセスは、ほぼ完全に化学的かつ自律的(つまり生気=タマシイを必要としない)で、なかなか興味深い。
ミトコンドリアは、太古の昔には独立した生物だったという出自から、いったんは動物に食べられたものの、その細胞内で生きながらえながら、宿主(食べられた相手)のためにエネルギーをつくっては供出し、しかも宿主の卵子にまで紛れ込んでその子孫の細胞内に自分の子孫を連綿と残すという、特異極まる生命体・・・いや、細胞内小器官だ。
というわけで、ミトコンドリアは前出のリン脂質からできた細胞膜に覆われ、水素イオン(陽子)を内外の濃度勾配を利用して取り込むことができる。
陽子がくぐるそのチャンネルに、ATPの材料と、酵素でできた歯車が巧妙に仕込まれてる。
そして、陽子がこの弁を通り抜ける際に、酵素が水車のように(言葉通りに)回転し、ATPがころりと組み上がって生み出されるカラクリになってるんである。
こうしてできたATPは、オロナミンCとして動物の体内全域に出荷され、供給を受けた細胞を活動させる。
これが、現代におけるわれわれの体内で行われてるエネルギー自給システムだ。
さて、ミトコンドリアにこのエネルギー生成をさせるには、さらに先立つエネルギーである酸素が必要だ。
動物の酸素呼吸とは、突き詰めれば、このミトコンドリアのメカニズムを働かせるためのやつなのだ。
そして、酸素ほど燃焼(エネルギー変換)効率のいい素材はない。
ところが、われわれが生命を組み立てようとしてる時代の深海底に、酸素はないんだった。

つづく

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11・細胞膜、って

陽子勾配とは、ふたつの隣り合うエリアにおいて、分子が持つ電子の数に多い少ないがあり、電子(-電荷)の、あるいは陽子(+電荷)の相互エリア間の移動が発生しうる状況のことを言う。
つまり、水が高いところから低いところに向かうように、ふたつのエリアの間で、電子、陽子の流れができるんである。
もっと簡単に言えば、電気はそうして流れるんだ。
そのエリア間に、幕を設けてみる。
電子と陽子の河のような奔流を堰き止めるわけじゃなく、微細な粒子が通り抜けられるチャンネルを設けて、浸透圧のように膜間を行き来できるように。※1
生命をつくる条件のひとつである「軽めにオープン気味な閉じた系」をつくり上げるために、まずこんな薄膜が欲しいわけだが、うってつけの便利な素材がある。
マッチ棒のような形のリン脂質は、アタマ部分は水に吸いつき、しっぽ部分は水から逃げようとする、不思議な物質だ。
これを二本水の中に放り込むと、しっぽ同士が水を避けてお互いにくっつき、逆にアタマ部分は水を求めて外に向く。
これをたくさん水面に浮かべると、しっぽ同士をくっつけたパーツの横隊(つまりアタマ部分が横に並ぶ)ができ、この帯をくるりと一周させれば、内外二層の二次元の輪となる。
さらにこれを水に沈めれば、隊伍が内外二層の三次元の球体になる。
これはいい、こいつは細胞膜として利用できそうだ。
なんと言っても、この「閉じた系」ときたら構造上、パーソナルな空間を完全に遮断してるわけじゃない。
びっしりと敷き詰められたリン脂質の間隙をこじ開けて内外通過チャンネルを設ければ、物質の・・・例えば陽子などの出入りも可能だ。
採用!
そこで振り出しに戻るが、膜の内外に陽子勾配をつくって、陽子にここをくぐらせてみたい。
この機構を用いたエネルギー生産装置を発明すれば、チムニーから独立できるかもしれないぞ。
これを自律式にすることは可能だろうか?
結果論になるけど、それを実現したのが、現代にすればミトコンドリア、太古にすればメタン生成菌、ということになる。

つづく

※1 ここもまた説明が逆で、微細な粒子が通り抜けられるメカニズムのおかげで、浸透圧という現象が起こる。

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10・RNAワールド、って

物質同士の偶然の連なりからついにDNAが形づくられてしまった・・・ってことになってるが、(デオキシリボ)核酸の単体による働きで遺伝子が下の代に移り、そっくりの形質が継承される、なんてわけじゃない。
その作業には、酵素が二重らせんをほどき、メッセンジャーRNAが駆けつけて情報をコピってトランスファーRNAに知らせ、素材をリボソームという工場に集積して設計図通りに組み立てる・・・という連綿とした規律が必要だ。
そこまで高度なやつを原形質(にもまだなってない)の彼に要求するのは、酷だ。
なので、とりあえずは「DNAになりきれてない情報媒体」である「RNAによる生命前駆体」ができた、としようではないか。
生命世界の最初期はRNAが支配してたという「RNAワールド」説だ。
RNAもまた、糖・リン酸・塩基による横構成ユニットを縦一列に連ねたもので、いわばDNAの二重らせんの片側だ。
この(リボ)核酸の使い勝手のよさは、遺伝情報の担い手であると同時に、エネルギーを自前でまかなうことができる点だ。
聞くひとが聞いたらびっくりするだろうが(わからないひとはぜんぜんわからないだろうが)、このRNAって子は、遺伝言語の四つの塩基のひとつであるアデニンと、身を削ったリボースを使って、アデノシンをつくるんである!
ね、ね、びっくりでしょ。
アデノシンと言えば、現世生物の細胞内にいるミトコンドリアがつくってくれる元気玉(エネルギーの素)であるATP(アデノシン三リン酸)を思い出すじゃない。
要するに、アデノシンもリン酸もあらかじめふところに持ってるRNAは、すでにチムニーの陽子勾配による電力供給を受けずともすむ、自家電力発生のメカニズムを開発しつつある、ってことなんだよ。
・・・って、今回は難しい化学知識を飛び交わせてごめん。
だけど次回、もっと奇跡みたいな分子生物学のエネルギー製造装置をお目に掛ける。

つづく

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9・生命のエネルギー製造装置、って

たちまちDNAまでつくれてしまったが、実際にそううまくいくものだろうか?
だけど、材料とそれに作用する自然法則がわれわれの世界に与えられた以上、後から振り返れば、実際にうまくいって当たり前だったんだ。
DNAは40塩基ばかりを並べればパーツとして役立ちはじめるようだから※1、宇宙に「環境どんぴしゃ!」の地球型を含むような惑星系が10の30乗個ばかりもあって、その地で無限に近いほどの機会を積み重ねられる安定した時間があれば、奇跡は起き得る。
その非常に小さな可能性を実現したのが、たまたま地球だった!・・・という逆見解をすれば、まったく不自然じゃなかろ?
そういうのん気な考え方で、わが説は突き進む(この読みものは、サイエンスの形をしたファンタジーなんで)。
さて、前章でさまざまな物質に化学反応を起こさせる際に、チムニー内を流れる電流をエネルギーとして用いた。
しかし、生命体の基本である「閉じた系」においては、外界からのオープンなエネルギーをこうまで無尽蔵に取り込むことは難しい。
環境から独立し、単体としてフリーな活動をはじめるには、ぜひともポータブルなエネルギー生産機構を体内にパッケージしたい。
後に発生する動物は、主にミトコンドリアという「元気玉製造装置」を細胞に内蔵してるが、これを稼働させるには酸素がいる。
ところが、太古の環境に酸素は皆無で、この活性な燃料を生産するには植物・・・とりわけ、葉緑素が必要だ。
先のことを明かしてしまえば、後の動植物は「ミトコンドリアや葉緑素という生命の先駆体」を食べ、いつの間にか体内に住まわせて飼い慣らし、エネルギー生産機構として利用するに至ったんだった。
つまり、エネルギーを消費する生命体が現れる以前に、エネルギーをつくる生命体が存在したんだ。
ということは、世界初の生命体である「彼」は、生命を駆動させる自前のエネルギー装置「そのもの!」だった可能性がある。

つづく

※1 人類が持つ塩基対は32億以上だけどね・・・

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8・生命のパーツ、って

有機物から単純なアミノ酸ができたとしても、開かれた系において、それらが何十~何千も規則通りに連なって偶然にタンパク質を形成する・・・なんてことはあり得なそうに思える。
アミノ酸を並べていく順序は、まさに現代の生物がDNAにコードする、高度で複雑な遺伝情報だ。
だけど、数億年という、一生命にとっては無限とも感じられるほどの途方もない時間をかけ、おびただしい試みを積み重ねつづければ、できないことはない。
・・・と考えるしかないし、彼は実際にそれをやり遂げたはずなのだ、逆算すれば。
そんなわけで、数億年という歳月が流れた。
自然の摂理が及ぼす数々の偶然が積もりに積もった結果、チムニー内のおびただしい微細孔の中に、これまたおびただしい種類のタンパク質がため込まれたとしようではないか。
そのタンパク質が、なおも合体に合体を重ね、さらに複雑な物質を発明していったとしようではないか。
無限の時間の中での偶然は、必然でもあるんだから(長時間をかけると、可能性があることは必ず起きる)。
そもそも、元素の構造なんて、原子核の周囲の電子の配置とイオンの力で、パチンパチンときれいに噛み合うパズルの形にできてるわけだから、それが起きない方がおかしいし。
つまり、へこみがあれば、出っ張りがジョイントするのは当たり前のことなんだ。
例えばここに、ある種の糖と、リン酸、塩基という三種類の物質が生成され、たまたま出会う機会を得たとする。
この糖、リン酸、塩基の三つが横一列に合体すると、ヌクレオチドというパーツになる。
糖とつながったリン酸は別の糖とつながり合え、その糖はまた別のリン酸とつながり合える。
塩基はというと、ある特定の別種の塩基とで「くっつきやすくて離れやすい」便利な水素結合ができる。
このヌクレオチドの形状は、まさに三次元パズルそのもので、上記した要領で、同様な形状の別ヌクレオチドと縦方向に組み合える。
少しずつ角度をつけながら、縦一列に長くつながるヌクレオチドの団体さんは、らせん形の鎖を構築する。
これがRNAだ。
さらに、糖・リン酸・糖・リン酸・・・の接続部の逆サイドに並んだ塩基が、別ヌクレオチドの塩基部分と水素結合をしていけば、もう一本のらせん鎖をつくることができる。
縦方向に並んだ塩基の配列とぴたり噛み合う、相方塩基の配列・・・このふたつがつくるのはもちろん、かの有名なあの形だ。
世にも美しい、二重らせん!
おおっ、つらつらと必然を並べ立ててるうちに、なんとDNAができちゃったぞ。
こう考えると、生命のメカニズムもまた、自然の力だけでつくれてしまいそうに思えてくるではないか。

つづく

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7・生命機構の生まれる環境、って

チムニーの外側には二酸化炭素の海、チムニーの内側には地底から噴出する水素の温水。
そのふたつの間には、pH(ペーハー)の差がある。
酸性とアルカリ性というやつだけど、実はこれって、分子が持つ電子が多いか少ないかの問題なのね。
陽子勾配(イオンによる電位差)というんだけど、浸透圧みたいなもので、電子は持て余し気味のエリアから足りないエリアに向かって移動する。
つまり、チムニーの外・内には、電気を送る・受けるのポテンシャルが生じてて、二酸化炭素の海から水素の温水に向かって電流が通り抜けるんだ。
さらにすごいことに、この硫黄と鉄化合物からできたチムニーときたら、はからずも「半導体」という、言わば電流のスイッチをオン・オフにできる機能を持つ素材なんだ。
生物ってのは、突き詰めれば、タンパク質を電気で動かす装置だろ。
だとしたら、このチムニーで、生命の原始的なメカニズムをつくり出せそうだとは思わないか?
つわけで、ここまでの話をひとまずくくってみよう。
深海底に、半導体として機能してくれるエネルギーみちみちの塔が立ってて、その中にはたくさんの小部屋が用意されてる。
小部屋は厳密に閉じた系とは言えず、環境に対してオープンだ。
その一室に単純な分子がたまっていき、最もシンプルな有機物となる。
部屋の内外にはふんだんな電流が流れてて、そいつを受け取ることでエントロピーの「減少」が実現し、つまり有機物は分解一辺倒でなく、不可逆とされるはずの成長がうながされる。
有機物たちは電子の媒介で結び合い、合体して、やがて偶然にもアミノ酸の形になり、お互いにくっつき合って長い長い高分子になり、ついにタンパク質になり、脂質になり、ヌクレオチドなんて集団単位にまで発達してくれるかもしれないね。
・・・ちょっと偶然がつづきすぎか?
だけど、こんな実験の失敗と成功とフィードバックを毎日毎日、何億年も繰り返してたんだよ、この場所で、「彼」は。
だったらできないわけがない、とも思わないか?

つづく

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6・生命の材料、って

当時の地球の大気には、二酸化炭素が充満してた。
つまり、酸素がなかった。
水と二酸化炭素から光合成によって抽出してくれる植物が現れるまで、酸素が気体の形で生産されることは皆無だったんだ。
海もまた、二酸化炭素に満たされてた。
そんな地球環境の中、深海底のチムニーから硫化水素(土成分と合体した水素)が噴き出したんだった。
現代のように酸素たっぷりの水に水素が飛び込むと、両分子は安定を求めて水(H2O)になる。
ところが、当時の二酸化炭素の海に水素が飛び込むと、メタン(CH4)になる。
C!
なんとなんとこの記号・炭素は、ゆうき(有機)の証じゃないの。
きたよ、きましたよ、いよいよ有機物の合成機会が。
ただ、牛のおならとして有名なメタンだけど、炭素の四つのプラグに水素四つがきっちりとおさまる正四面体という超安定な組成のために、他の物質との反応性が低く、そこからの発展がまったく期待できない。
生命はメタンでは創造しにくく、できれば「水素と二酸化炭素の壁は化学変化で飛び越えつつも、超安定のメタンにはなりきらない中間物質」でつくっていきたい(し、実際に現生生物の体はその域の物質でできてるようだ)。
その中途半端な配合を実現するには、非常にのんびりとした時間軸と、おびただしい試行錯誤が許される秘密の空間が必要だ。
・・・まてよ、それにぴったしの実験環境があったぞ。
それが、チムニーのスポンジ状の内部構造にうがたれた、微細な孔だ。

つづく

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5・深海底熱水噴出孔、って

最原初の生命たる自律式循環機構の生まれ故郷として最有力視されてるのが、深い深い海の底だ。
ここには、生物のからだをつくる素材と、ねぐらと、メカニズムを駆動させるエネルギーがそろってるんだ。
ここを拠点に、この書きものでは生命体(地球生命※1)の創造を試みる。
さて、さっき生命の種を「自律式」の機構と書いたけど、このときにはまだ彼※2には自分「自身」というくくり・・・つまり外界との隔壁はなく、海底の環境にオープンなメカニズムだったと思われる。
そのイメージから、この書きものでは、閉じた系に生命の材料を入れて揉むやり方ではなく、生命現象をつくった後にそれをカプセルに入れて環境から独立させる、というプロセスを踏む。
では、いよいよ生命創造のオペレーションに入ろう。
深海底に穴が開き、地中のマグマに熱せられた水が噴出する場所がある(太古からあったが、今もある)。
何百度もの熱水を爆裂噴出させるホットポイントだと、か弱い原初生命にはシリアスな問題が生じるので、周辺に存在する比較的いい湯加減の水を汲み出してくれるエリアに、観測地点を位置取ろう。
この水は、硫化水素を主成分とする上に、鉄などの重金属まで混じったヤヴァい泥水だ。
そのため、穴の周囲に高い煙突(チムニーと呼ばれる)が築かれていく。
チムニーは、細密な硫黄や鉄粒子が積み重なったものなので、スポンジのようにスカスカな構造をしてる。
言い換えれば、微細な孔が無数に開いてるんだ。
そこは、生命に必要な「閉じた系」とまでは言えないが、マンションの個室のような小部屋とは言えないだろうか。

つづく

※1 宇宙には、われわれ人類の常識や生命の概念からはるか逸脱した生命体が生息してる可能性があるため、水を元にした地球オリジナルな生命の形態を「地球生命」と呼ぶことにする。
※2 この後に胚胎されることになる最初の地球生命を、この書きものでは「彼」と呼ばせてもらう。

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