背後の座敷席に、若くて荒っぽい漁師の一団が陣取った。
「やっと漁が再開できて!」
「こんなうまい寿司が食えるようになって!」
「ヨメと子供を食わすことができて!」
みたいなことを、怪獣の咆哮のような大声で言い交わし、肩を叩き合い、乾杯をくり返し、バカを言い合ってる。
「うるさくてすいません」
「平気ですよ。興味深いです」
「ありがとうございます」
大将は寡黙に、魚をさばき、寿司を握り、伊万里の皿に並べつづける。
うまそすぎる。
特上には手が出ないが、寿司だけは食わねば、と思い、1800円也の鉄火巻きをたのんだ。
若衆が、その場で巨大なマグロの中落ちを骨の間からかき出し、ネタにする。
それを大将が巻物にして、出してくれる。
「おまちどうさまです」
一片をつまんで、ほおばる。
ちょっと体験したことのないうまさが、舌の上でほどけてく。
涙がこぼれそうになった。
「おいしいです」
「ありがとうございます」
オレの目に涙がいっぱいたまってくのを見て、大将は目を伏せる。
なんの涙だったのか、なぜかこらえきれなかった。
泣くといえば、あれだね、東北のひとって、こらえつつ泣くね。
声を出して嗚咽するってことが、テレビカメラの前だからからな、ないような。
NHKってのは、ほんとにいい番組をつくるんだけど、こないだ「被災地のお祭り」みたいなのをやってたの。
瓦礫の山というか、完全に滅形した町内を、有志たちが山車を曵いて歩くんだけど、いかつい男たちが声もなく、肩震わせて、落涙してるの。
あれは気質なのかな。
哀しみと、悔しさと、辛抱強さをついに越えた炸裂を、なおも抑制するんだね。
なんと優れた美意識かと思う。
つか、やさしさかと。
で、すし哲。
「ごちそうさま」
と言うと、じいちゃん大将、
「ただいま、口直しの自家製シャーベットをお持ちしますが」
「いや、口、直したくないんで、このまま帰らせてください」
美しい間がありまして。
「余韻を楽しまれるわけですな」
「おいしかったです」
「ありがとうございます」
こういう会話ができるから、オレはつくづく立派だよなあ。
この日は、どこにも傷のない、まん丸の一日だった。
こんな具合に句読点を打って、被災地を後にしたよ。
学ぶことの多い東北行だった。
この旅を物見遊山にしないために、もう一度行かなきゃ、と思ってる。
おしまい
東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園
「やっと漁が再開できて!」
「こんなうまい寿司が食えるようになって!」
「ヨメと子供を食わすことができて!」
みたいなことを、怪獣の咆哮のような大声で言い交わし、肩を叩き合い、乾杯をくり返し、バカを言い合ってる。
「うるさくてすいません」
「平気ですよ。興味深いです」
「ありがとうございます」
大将は寡黙に、魚をさばき、寿司を握り、伊万里の皿に並べつづける。
うまそすぎる。
特上には手が出ないが、寿司だけは食わねば、と思い、1800円也の鉄火巻きをたのんだ。
若衆が、その場で巨大なマグロの中落ちを骨の間からかき出し、ネタにする。
それを大将が巻物にして、出してくれる。
「おまちどうさまです」
一片をつまんで、ほおばる。
ちょっと体験したことのないうまさが、舌の上でほどけてく。
涙がこぼれそうになった。
「おいしいです」
「ありがとうございます」
オレの目に涙がいっぱいたまってくのを見て、大将は目を伏せる。
なんの涙だったのか、なぜかこらえきれなかった。
泣くといえば、あれだね、東北のひとって、こらえつつ泣くね。
声を出して嗚咽するってことが、テレビカメラの前だからからな、ないような。
NHKってのは、ほんとにいい番組をつくるんだけど、こないだ「被災地のお祭り」みたいなのをやってたの。
瓦礫の山というか、完全に滅形した町内を、有志たちが山車を曵いて歩くんだけど、いかつい男たちが声もなく、肩震わせて、落涙してるの。
あれは気質なのかな。
哀しみと、悔しさと、辛抱強さをついに越えた炸裂を、なおも抑制するんだね。
なんと優れた美意識かと思う。
つか、やさしさかと。
で、すし哲。
「ごちそうさま」
と言うと、じいちゃん大将、
「ただいま、口直しの自家製シャーベットをお持ちしますが」
「いや、口、直したくないんで、このまま帰らせてください」
美しい間がありまして。
「余韻を楽しまれるわけですな」
「おいしかったです」
「ありがとうございます」
こういう会話ができるから、オレはつくづく立派だよなあ。
この日は、どこにも傷のない、まん丸の一日だった。
こんな具合に句読点を打って、被災地を後にしたよ。
学ぶことの多い東北行だった。
この旅を物見遊山にしないために、もう一度行かなきゃ、と思ってる。
おしまい
東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園