今日のテーマは、介護現場で起こりやすい事故の一つ、「誤薬(ごやく)」についてです。介護に携わる方だけでなく、ご家族の薬の管理に不安を感じる方も、ぜひ最後までお読みください。

誤薬とは?その種類と影響

誤薬とは、文字通り「薬の間違い」のことです。具体的には、誤った種類、量、時間、または方法で薬を服用することを指します。

介護現場で特に多い誤薬の種類としては、以下のようなものがあります:

• 利用者間違い: 違う人の薬を飲ませてしまう。

• 内服忘れ: 利用者さんが薬を飲み忘れる、あるいは介護者が内服介助を忘れる。特に食前薬の飲み忘れが多いです。

• 拒薬・吐き出し: 利用者さんが飲むべき薬を拒否したり、内服介助後に吐き出してしまったりする。

• 処方・準備ミス: 看護師や薬剤師による処方間違いや、準備時のミス。

• 認知症による誤薬: 認知症の利用者さんが他の人の薬を飲んでしまう。

これらの間違いは、利用者さんの健康に重大な影響を及ぼす可能性があります。

誤薬を防ぐための基本的な考え方:5R/6R

誤薬を防ぐための教科書的な対策として、「5R」という言葉があります。これは、注意すべき5つの「Right」(正しい)の頭文字を取ったものです。

1. 正しい患者(Right Patient)

2. 正しい薬剤(Right Drug)

3. 正しい容量(Right Dose)

4. 正しいルート・経路・方法(Right Route)

5. 正しい時間(Right Time)

最近では、これに「正しい目的(Right Purpose)」を追加した「6R」が主流とされています。これらを覚えるための語呂合わせとして、「めぐみ両方ときな」という覚え方も紹介されています。

より実践的な誤薬対策

しかし、これらをただ覚えるだけでは不十分です。実際に誤薬事故を減らすためには、各施設に合わせた具体的な対策が必要です。なぜなら、施設のやり方や使用している機材、入居している利用者さんの状況などがそれぞれ異なるため、事故の原因や対策も変わってくるからです。

実践的な対策の例としては、以下のようなものが挙げられます:

• 利用者間違いを防ぐ: 薬を取り出す時や口に入れる前に、フルネームでの指差し呼称を徹底する。

• 同姓同名の利用者への対策: あらかじめ片方の利用者の薬の袋にマークをしておくことで、間違いを減らせます。

• 配役係を設ける: 作業中断はミスの元となるため、一人の人が配役する「配役係」を設ける。

• 時間帯ごとの対策: 例えば、朝に事故が多いと分析された場合、夜勤者の注意力低下を考慮し、早番が配役を担当するといった対策も有効です。

重要なのは、「あの人がミスが多いから、薬をやらせないようにしよう」といった個人を責める対策ではなく、誰が行っても安全な方法を検討することです。

誤薬の真の原因と対処法

どんなに優れたルールや対策があっても、「忙しさや焦り」といったヒューマンエラーが誤薬の最大の原因となります。人の行動の90%は無意識に行われているため、意識的な行動はわずか10%に過ぎません。

そのため、指差し呼称などの対策も、行われなければ意味がありません。つまり、誤薬の本当の原因は、「手順不履行(手順が守られないこと)」にあると言えるでしょう。

この「手順不履行」を防ぐためには、「なぜ薬を間違えてはいけないのか」という根本的な理解が重要です。

薬を間違えるとどうなる?具体的なリスク

薬を間違えて服用した場合、その影響は薬の種類によって大きく異なります。

1. 下剤(危険度:1)

    ◦ 間違えて飲んだ人: 下痢になる。

    ◦ 本来飲むはずだった人: 便秘がより苦しくなる。

    ◦ 直接的な命の危険度は低いものの、罰ゲームレベルで嫌な経験です。

2. 眠剤(眠れるようにする薬)(危険度:2)

    ◦ 間違えて飲んだ人: 深く眠り込んでしまう。

    ◦ 本来飲むはずだった人: その日は眠れなくなる。

    ◦ 種類によってはふらつきが生じ、転倒のリスクが飛躍的に上がるため注意が必要です。

3. 抗血栓薬(血をサラサラにする薬)(危険度:4)

    ◦ 心臓病などで血栓ができやすい人が服用します。

    ◦ 服用を中断すると、心臓でできた血栓が脳に流れ、脳梗塞を引き起こす可能性があります。脳梗塞になると麻痺などの障害が残ることもあります。

    ◦ 常に飲み続けて血液中の濃度を一定に保つ必要がある、非常に重要な薬です。

4. 糖尿病の薬(危険度:5)

    ◦ 高血糖を下げるために服用します。

    ◦ 飲み忘れ: 高血糖が続くと合併症のリスクがありますが、直ちに命に関わることは稀です。

    ◦ 過剰服用(2回分飲むなど)や、糖尿病ではない人が服用低血糖を引き起こします。糖は脳にとって非常に重要なので、低血糖は短時間で命に関わることがあります。冷や汗、動悸、震え、疲労感、眠気、めまいなどが生じ、重度になると意識消失や痙攣に至ることもあり、非常に危険です。

5. 血圧の薬(危険度:5)

    ◦ 血圧が高い人が血圧を下げるために服用します。

    ◦ 血圧が高くない人が服用: 血圧が下がりすぎ、脳に必要な酸素や糖が運べなくなり、めまい、立ちくらみ、ひどいと意識消失を起こします。

    ◦ 服用しなかった場合: 血圧が上がり、心臓や脳に負担がかかり、もともと心臓が悪い人にとっては危険です。ひどい場合には脳出血などを起こす可能性もあります。

このように、薬は健康維持に不可欠なものですが、一歩間違えれば命に直結するリスクがあります。

まとめ

薬は高齢者の方々が長く健康に過ごすために非常に大切なものです。だからこそ、介護に携わる全ての職員が、薬の重要性を正しく理解し、決められた指差し確認などのルールを確実に実行することが求められます。

利用者さんの健康を守り、私たち自身の仕事を守るためにも、誤薬防止への意識を高く持ち続けましょう。

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このブログ記事が、誤薬について理解を深める一助となれば幸いです。