今回は、デイサービスで提供される**「口腔機能向上加算」**について深掘りしていきます。口の健康は全身の健康に直結しますが、意外にもこの加算の算定率は低いのが現状です。なぜ算定率が低いのか、どんな訓練を行うのか、そしてケアマネージャーの皆さんが果たすべき重要な役割について、詳しく見ていきましょう。
算定率の現状と課題
令和5年度の介護給付費分科会の資料によると、通所介護での口腔機能向上加算の算定率は7.9%とかなり低めです。地域密着型デイサービスではさらに低く、5%程度にとどまっています。これは、現場の歯科衛生士から見ると「取れるはずなのに、なぜ取っていない施設が多いのだろう?」と感じるレベルだそうです。
算定のハードルとなっているのは、主に以下の2点だと考えられています。
- 人員配置の課題
- 実際の業務量の多さ
しかし、適切な知識と工夫があれば、この加算は多くの利用者様にとって非常に有益なサービスとなり得ます。
口腔機能向上訓練の内容と実施時間
口腔機能向上加算には、利用者様への口腔ケア提供と口腔機能訓練の実施が含まれます。多くの方が悩む「どんな訓練をどのくらいの時間実施すれば良いのか」について、具体的な訓練内容と実施のポイントをご紹介します。
訓練は主に以下の5つの視点から行われます。
1. 唇と舌の体操
- 目的: 発音の改善、咀嚼(食べ物をうまく噛み砕くこと)の促進、そして何よりも誤嚥(ごえん)の予防に繋がります。
- 内容:
- 「パタカ」の発音練習: 「パ・タ・カ」と一音ずつ区切ってゆっくり発音することで、筋肉の伸び縮みをスムーズにします。
- 舌の運動: 舌を「べーっ」と出したり引っ込めたり、左右に動かしたり、唇をなめるように回したりします。
- 唇の運動: 唇をしっかり閉じたり、すぼめたり、横に引いたり(「うい、うい」と発音するような動き)します。頬と一緒に唇を動かすことで、噛む・飲み込む動作がスムーズになります。頬を膨らませたり、すぼめたりするのも効果的です。
- ポイント: 座ったままでできることが多く、練習後はいつでも自由に行うよう指導すると良いでしょう。
2. 唾液腺マッサージ
- 目的: 口の中の乾燥を防ぎ、唾液の分泌を良くすることです。唾液が十分に出ることで、味を感じやすくなり、噛んだり飲んだりしやすくなり、発音・発声もスムーズになります。
- 内容: 主要な3つの唾液腺をマッサージします。
- 耳下腺(じかせん): 耳の少し前を軽く3回ほど押したり、くるくる回したりします。
- 顎下腺(がっかせん): 耳の下を触りながら、親指で顎の骨の内側をグイグイと上に向かって押します(首を揉まないように注意)。
- 舌下腺(ぜっかせん): 親指を立てた握りこぶしを2つ作り、顎の内側に当ててグイグイと押します。難しい場合は、グーの形でも大丈夫です。
- 効果: 唾液が出ると副交感神経が優位になり、リラックス効果も期待できます。
3. 呼吸訓練(鼻呼吸の促進)
- 目的: 口をしっかり閉じて鼻で息をすることを促すことで、ウイルスや細菌の感染予防、口の乾燥改善に繋がります。
- 内容:
- ゆっくりと鼻から吸い、口から吐く動作を数回繰り返します。
- 深く吸って深く吐くのが理想ですが、吐ききれない場合は、一度止めてからさらに吐き出すと良いでしょう。
- 吸って止めて吐くというリズムも効果的です。
4. 頬と口周りの筋力訓練
- 目的: 食べたり飲んだりする際に重要な頬と口周りの筋力を鍛えることで、食べこぼしを防ぎます。
- 内容:
- 風船やストローを加えて膨らませることで、頬の筋力をつけ、唇をしっかり閉じられるようにします。
- 頬をパンパンに膨らませ、その後すぼめる(2秒程度キープ)運動をします。
- 歯磨き後の「ブクブクうがい」のように、口に空気を入れて右の頬、左の頬、上唇の内側、下唇の内側と、空気を移動させる練習も効果的です。
5. 咀嚼と嚥下(えんげ)のトレーニング
- 目的: 噛む力や飲み込む力を維持・向上させることです。
- 内容:
- ガムや嚥下補助ゼリーを使って、アムアムと噛む訓練をします。入れ歯にくっつきやすい場合は、鉄分やカルシウムなどのグミサプリメントも活用できます。
- 意識して飲み込む訓練: グミなどを食べた後、出てきた唾液を意識し、顎を引いて「ごくん」と飲み込みます。立ち上がる時の「よいしょ」のように、「飲むぞ」と意識することで筋肉に力が入り、誤嚥を防ぎ、食道を広げることに繋がります。
訓練の実施時間
- 1つの動作を2~3回繰り返すのが目安です。
- 全てを行う必要はなく、一つだけピックアップして行うのも良いでしょう。
- 全体としては、1回あたり15分から20分(指導時間含む)程度で実施するのが良いとされています。
- 利用者様と一緒に実施し、できているか確認することも重要です。
- 小集団で行ったり、食事前の嚥下体操を取り入れたりするのも効果的です。
- 無理せず、歌を歌うなどの楽しみながら続けられる訓練も非常に有効です。デイサービスによっては、替え歌にして楽しむなどの工夫もされているようです。
ケアマネージャーの役割
口腔機能向上加算の算定と継続において、ケアマネージャーの役割は非常に重要です。
1. 対象者の把握
以下のいずれかに該当する利用者様が対象となります。
- 認定調査表における嚥下、食事摂取、口腔のいずれかの項目で「1以外」に該当する方
- 基本チェックリストの口腔機能に関連する3項目のうち2項目以上が「1」に該当する方(「半年前と比べて硬いものが食べられなくなった」「食事中にむせる」「口が乾く」の3項目)
- その他、口腔機能が低下している、またはその恐れのある方
- むせや食べこぼしが目立つ、舌が汚れている、滑舌が悪い(特にタ行・カ行など)、入れ歯がずれるなどのサインもチェックポイントになります。
2. ケアプランへの位置づけ
口腔機能向上加算の必要性がある場合は、ケアプランに明確に位置づける必要があります。
- 口腔機能の維持・向上、衛生面の改善などを目的とした具体的な目標を記載します。
- 例:「誤嚥のリスクを減らし、安心して食事ができるようにする」「舌の動きを良くし、唾液の分泌を促す」「口腔内を清潔に保つ」など、短期・長期目標に繋がる表現が望ましいです。発症予防という観点も重要です。
3. サービス担当者会議での連携
デイサービス以外のサービス(訪問看護など)も利用している場合は、担当者会議で各サービスが口腔ケア・訓練に対してどのような役割を担うかを検討し、ケアプランに落とし込むことが大切です。
4. 効果の確認と継続判断
- ケアマネージャーは、デイサービスから提出される口腔管理指導計画やアセスメントの状況を把握し、訓練の効果や利用者様の変化を確認します。
- 口腔機能向上加算は基本的に3ヶ月で完結します。3ヶ月経過時に、機能低下の恐れや、訓練を継続しないことによる機能低下のリスクがある場合、アセスメント結果や状況の変化を根拠に継続の判断を行います。
- 加算2を算定している場合、介護保険の科学的介護システム(LIFE)にデータ提出が必要で、そのフィードバックも活用することで、利用者様の口腔状態改善に役立てられます。
利用者様の声とメリット
利用者様の中には、当初「歯医者さん以外に口の中を見られたくない」「集団で口の訓練をするのは抵抗がある」といった理由で、サービスの利用に抵抗を感じる方もいらっしゃいます。
しかし、口腔ケアや訓練を実施することによるメリットは非常に大きいです。
- 機能の改善: 自分では気づかないうちに機能が低下しているケースも多く、訓練を通じて改善を実感できます。
- 自己肯定感の向上: 口腔内が清潔になったり、歯医者さんから褒められたりすることで、自信に繋がる利用者様も多いです。
- 誤嚥性肺炎の予防: 訓練は、重大な健康リスクである誤嚥性肺炎の予防にも大きく貢献します。
「歯があれば何でも食べられるわけではない」ということを理解していただき、「筋肉や唾液も大切なんだ」と伝えていく声かけが重要です。最初は必要ないと感じていた方も、実際にやってみることで「やってよかった」と感じるケースが多いようです。
まとめ
デイサービスにおける口腔機能向上加算は、利用者様の生活の質を大きく向上させる可能性を秘めています。算定率が低い現状には課題もありますが、適切な訓練内容とケアマネージャーとの連携、そして利用者様への丁寧な説明を通じて、より多くの施設で活用されることが望まれます。
ぜひ、この情報を参考に、利用者様が健康で豊かな生活を送れるよう、口腔機能向上サービスを積極的に取り入れてみてください。