2024年(令和6年)4月1日より、介護・障害福祉サービス事業所における業務継続計画(BCP)の策定が本格的に義務化されました。しかし、「具体的に何をすればいいの?」「研修や訓練は必須なの?」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

今回の記事では、最新の情報を基に、BCPの研修と訓練について、減算対象となること・ならないこと、そして効果的な実施方法を詳しく解説します。

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1. BCP義務化の現状と減算対象について

まず、BCPの義務化と減算の基本的な考え方を確認しましょう。

1-1. 減算の対象となる事業所と猶予期間

• 令和6年4月1日から義務化・減算対象:通所介護、ショートステイ、特定施設入居者生活介護など、利用者が施設に集まるタイプのサービスは、すでにBCPの策定と必要な措置が求められています。

• 令和7年4月1日(令和7年3月31日まで)まで猶予期間あり:訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、リハビリ、福祉用具貸与、定期巡回、ケアマネジャー(介護支援専門員)、居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護、計画相談支援など、職員が利用者宅を訪問するタイプのサービスやケアマネジメント系のサービスには1年間の猶予期間が設けられています。

    ◦ この期間中は、BCPを策定していなくても減算の対象にはなりませんが、運営指導の対象となり、早期の整備を指導される可能性があります。猶予期間があるとはいえ、早めの策定が推奨されます。

1-2. 訓練や研修は「減算の算定要件ではない」

驚くべきことに、令和6年度介護報酬改定に関するQ&Aでは、計画の周知、研修、訓練、および定期的な見直しの実施は、減算の算定要件ではないと明記されています。 つまり、BCPを作成し、必要な措置を講じていれば、研修や訓練を行わなくても直ちに減算にはならないということです。

ただし、これはあくまで「減算にならない」というだけであり、国としては「適切に実施してほしい」という意図があると解釈されています。また、万が一事故やクラスターが発生した際に、BCPの運用状況が問われ、民事上の賠償リスクに繋がる可能性もあります。

2. 「必要な措置」とは何か?

BCP未策定だけでなく、「当該業務継続計画に従い必要な措置が講じられていない場合」も減算対象となります。では、この「必要な措置」とは一体何でしょうか?

厚生労働省に確認しても明確な記載がないとのことですが、動画では「BCPに従い必要な措置というのは、まさにBCPそのものだ」と解釈しています。つまり、感染症発生時や災害発生時など、BCPを発動すべき状況になったら、計画通りに確実に実行することが「必要な措置」であると考えられます。

3. BCP研修の目的と実施方法

研修は減算対象ではないものの、BCPを実効性のあるものにするためには非常に重要です。

3-1. 研修の目的と内容

• BCPの具体的な内容の理解:職員全員がBCPの具体的な内容を理解することが重要です。BCPそのものを配布・提示しながら説明しましょう。

• 平常時の対応の必要性や緊急時の対応に係る理解の深化:BCPがなぜ必要なのか、緊急時に何をすべきか、役割分担などを周知徹底します。

3-2. 研修の頻度と記録

• 頻度:定期的に年1回以上の実施が推奨されています(施設によっては年2回以上)。ただし、前述の通り、この頻度を守れなくても減算にはなりません。

• 記録:実施した場合は、研修の実施記録を残しておくことが大切です。

3-3. 感染症の予防及び蔓延防止の研修との関係

BCPの感染症対策と「感染症の予防及び蔓延防止のための措置」は、異なる要件として設定されています。両者は似ていますが、別々に実施する必要があるため注意が必要です。

4. BCP訓練の目的と実施方法

訓練もまた減算対象ではないものの、緊急時にBCPを確実に実行できるようになるために不可欠です。

4-1. 訓練の目的

• BCPの実行可能性の確認と習熟:いざという時にBCPをスムーズに実行できるよう、訓練を通じて習熟します。

4-2. 訓練の実施形態と特徴

• 机上訓練(シミュレーション)が有効:訓練の実施は、机上訓練を含めて実施形態は問われないとされています。会議室で仮想の状況を設定し、ディスカッション形式で行う「机上訓練」でも十分に訓練として認められます。

    ◦ 大規模な実地訓練が難しい事業所でも、机上訓練であれば実施しやすいでしょう。

• 従来の避難訓練との違い:避難誘導、初期消火、救出救助訓練、救命措置などは従来の避難訓練の範囲です。BCPの訓練としては、これらに加えて**「安否確認」「対策本部の設置」「被災直後~初期・中期・後期における役割分担の確認」**といった、よりBCPの運用に焦点を当てた内容が求められます。

4-3. 机上訓練の具体的なやり方

• ワークショップ型またはロールプレイ型

    ◦ ワークショップ型:少人数のグループ(例:4人1組)に分かれ、進行役がシナリオ(例:地震発生)を提示し、それぞれの役割(救出救護班、安否確認班、サービス継続班など)に応じて「この瞬間に何をしますか?」「どう連携しますか?」といった話し合いを行います。

    ◦ 課題カードの活用:「トイレが断水して使えない時にどうするか?」など、具体的な課題を提示し、対処法を検討する形式も有効です。

• 東京都在宅サービスBCP作成支援動画が参考になる:東京都が公式に出している机上訓練の動画は、具体的なイメージを掴む上で非常に役立ちます。

• PDCAサイクルを意識:訓練で得られた疑問や気づきは、BCPの改善(ブラッシュアップ)に反映させ、PDCAサイクルを回していくことが重要です。

• 記録の重要性:訓練を実施した場合は、その内容を記録に残しておきましょう。

5. まとめ:減算を回避し、BCPを実効性のあるものにするために

最終的に、減算を回避し、BCPを事業所で有効活用していくために「絶対に行うべきこと」と「プラスアルファで行うべきこと」をまとめます。

5-1. 絶対に行うべきこと(減算回避の必須事項)

• BCPの策定感染症対策と災害対策の2種類を作成し、それぞれに**3つの要件(ABC)**を満たしましょう。

    ◦ 法人単位ではなく、各事業所ごとに作成が必要です(例:デイサービスが3箇所あれば、それぞれBCPを策定)。

• BCPの発動と運用:感染者発生や災害発生など、トリガーに該当する状況になったら、実際にBCPを発動し、計画通りに業務を継続します。

• 記録:BCPを発動し、運用した場合はその様子をしっかりと記録に残しましょう。

5-2. プラスアルファで行うべきこと(BCPの実効性を高める推奨事項)

• BCP研修の実施:BCPの内容を職員に周知し、理解を深めるための研修を行いましょう。動画視聴や読み合わせなど、できる範囲で構いません。

• BCP訓練の実施:緊急時にBCPを実行できるよう、机上訓練などを通じて役割分担や対応手順を確認しましょう。特に初年度は無理せず、できる範囲で実施することが推奨されます。

• 研修・訓練の記録:実施した研修や訓練は記録に残しておきましょう。

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BCPの策定と運用は、利用者や職員の安全を守り、事業を継続していく上で不可欠です。減算対象とならないからと手を抜くのではなく、来るべき緊急事態に備え、実効性のあるBCPを構築・運用していきましょう。

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