キリアンです。
あなたは商談中、手元のヒアリングシートを埋めることに必死になっていませんか? 「現在の課題は?」チェック。 「ご予算の規模は?」チェック。 「導入時期のご希望は?」チェック。
項目を全て埋め終えて、「ふぅ、これで完璧なヒアリングができた」と満足して帰路につく。 でも、その数日後。あんなに丁寧に話を聞いたはずの顧客から「今回は見送らせてください」と短いメールが届く。
なぜだか分かりますか? ハッキリ言いましょう。 あなたがやっていたのは「ヒアリング」ではなく、ただの「尋問」だからです。
顧客はあなたのチェックリストを埋めるために貴重な時間を割いているのではありません。 あなたがシートに目を落とし、ペンを走らせるたびに、顧客は「ああ、この男は私を見ていない。自分の報告書を完成させたいだけだ」と、心のシャッターを静かに下ろしているのです。
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私は商談に、ヒアリングシートを持ち込むことはありません。 耳が聞こえにくい私にとって、最大の「情報源」は相手が発する言葉ではなく、質問を投げかけた後の「コンマ数秒の反応」にあるからです。
例えば、私が「今、現場のスタッフ様はこのプロジェクトに前向きですか?」と聞いたとしましょう。
相手が「ええ、問題ありませんよ」と即答したとしても。 ・答える瞬間に、視線が右下に逃げた。 ・「ええ」という言葉の前に、わずかに喉が鳴った。 ・手に持っていたペンを、無意識に強く握り直した。
もし、こうした「身体のノイズ」を観測したなら、私はシートにチェックを入れる代わりに、こう切り込みます。 「……今、少しだけ言い淀まれましたね。もしかして、部長クラスと現場の間に、温度差があるのではないですか?」
その瞬間、相手の顔色が変わります。 「……実はそうなんです。上が勝手に決めたことに、現場が反発していてね」 ここから、「チェックリストには一生現れない、真の課題」が溢れ出し始めるのです。
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巷の「パクリビジネス」を推奨する連中は、こう教えます。 「漏れがないように、標準化されたヒアリングシートを使いましょう」 「AIが生成した『刺さる質問リスト』で、顧客のニーズを深掘りしましょう」
……笑止千万。 標準化された質問からは、標準化された「嘘」しか返ってきません。 AIが作った質問を読み上げているだけのあなたに、誰が「社内のドロドロした内情」を打ち明けるでしょうか。
私が42歳で全てを失い、それでも企業の深い悩みに入り込めているのは、私が「シートを埋める手」を止めたからです。
相手の目を見なさい。 相手が言葉に詰まった「沈黙」を、逃さず観察しなさい。 ヒアリングとは、情報を収集することではなく、相手の「違和感」を一緒に掘り起こす作業なのです。
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もし、あなたが「次は何を聞こう」とシートの次の項目を探しているなら、そのシートを今すぐ裏返してください。
相手は、あなたの質問に正解を答えに来ているのではありません。 「この人は、私の口から出た言葉ではなく、私の苦しみを視てくれているか?」 その一点を、非言語のレベルでテストしに来ているのです。
チェックリストを捨てなさい。 そして、相手が発した「一言」の裏側にある、広大な「行間」に飛び込む覚悟を決めなさい。 その時、あなたのノートには、世界に一つだけの「真実」が記されるはずです。
次回は、会議の本質。 「キーマンの見極め:会議室で一番『喋らない人』が決定権者であることを見抜く技術」をお伝えします。
キリアン